惨夢
第三夜
はっと目を開ける。
世界は朝の色で満たされていた。
「…………」
わたしは横向きのまま、視線だけを彷徨わせてみた。
見慣れた自分の部屋。ちゃんと現実だ。
腕が痛い、と思って、思いきり枕にしがみついていたことに気がつく。
その力をほどくと、どっと疲労感がのしかかってきた。
「ふぅ……」
ため息をついて一度目を閉じてみる。
二度寝の心配はなかった。そんな眠気もゆとりもない。
すぐに開け、そろそろと身体を起こしてみる。
ベッドの上に座ったまま、袖を捲ってみた。
(傷……4本ある)
少し待ってみたけれど、昨日のように消える気配はない。
『……この傷が何なのか考えてた。ひとつ減った意味も』
高月くんの言葉を思い出す。
この傷が示唆するリミットは結局、日数なのか、残機なのか。
「減ってないってことは……残機?」
そう考えて、昨晩の“最後”が蘇った。
柚とともに屋上から転落したわたしは、果てしない闇に飲み込まれた。
延々と落下し続け、気がついたら意識をなくして朝を迎えていた。
この傷が“残機”なら、わたしは昨晩、死なずに生き延びられたということなのだろうか。
だから減っていない?
ただ、仮にそうだとしても、屋上から飛び降りることそのものが悪夢を終わらせる方法にはなり得ないみたいだ。
腕の傷は残ったまま。
つまり、まだ解放されてはいない。
飛び降りることは、その日を生きて終わらせる手段に過ぎないらしい。
「みんなはどうなったんだろう……」
柚はともかく、解散して以降一度も見かけなかった高月くん、追われていた夏樹くんや朝陽くんは────。
ベッドから下りたわたしは支度を整え、慌ただしく家を出た。
◇
教室で4人と顔を合わせたけれど、みんなひどい顔色をしていた。
わたしも例外じゃない。
夢を見ている間、自分はどういう状態になっているのだろう?
目覚めるたび、眠気はないけれど、すっきり寝られた気もしない。
ただただ気が滅入っていく。
「あの……。わたし、今朝は腕の傷減らなかった」
誰も口を開こうとしない中、重たい沈黙を破るようにおずおずと言った。
「あたしも」
「……うん、俺も減ってない」
柚と朝陽くんが同調した一方で、夏樹くんは青い顔のままはっとする。
「マジで……? 俺、また減ったんだけど」
差し出された彼の腕を見ると、確かに赤い線は3本しか刻まれていなかった。
「僕もだ」
高月くんも同様だったけれど、彼はどこか淡々としている。
そのことに対してさして驚いてもおらず、ただ事実として受け止めているみたいだ。
「おまえらは昨日、生き延びたのか?」