惨夢
「……そういえばさ、昨日おかしかったよね」
鬱々と雰囲気が沈んでいく前に、柚が話題を変えた。
同意を求めるような眼差しに気づき、わたしは頷く。
「あ……うん。チャイムって1時間に1回のはずだよね? それで1階が崩れる」
「そうそう。なのにさ、昨日は1階だけじゃなくて2階も崩れ落ちたの! てか、3階も4階も」
チャイムとともに崩落が始まったが、なぜかそれは1階だけに留まらなかった。
あれはどういうことだったのだろう?
「……妙だな」
思案するように顎に手を当てる高月くん。
やっぱり、わたしたちの憶測が間違っていた?
「あと、非常ベル。あれも何だったんだろ」
朝陽くんが訝しげに眉を寄せる。
「あー、それあんたが鳴らしたんじゃなかったの?」
「いやいや、俺じゃないって。あのときは……鍵見つけて、そしたらいきなり鳴り出して。廊下に出たら化け物がいたから逃げたんだよ」
意図的に鳴らしたわけでも、事故的に鳴ってしまったわけでもないようだ。
「何だそれ? じゃああの化け物が鳴らしたってこと?」
夏樹くんが不思議そうに首を傾げる。
「んー、でも校舎には化け物以外にもやばい何かがいるんだもんね。それの仕業かも」
「あ! あの笑い声のやつか」
職員室へ向かう前、聞こえた奇妙な笑い声と“こっち”と囁く声。
あれが化け物とはまた別の怪異なら、その可能性はありえそうだ。
そう思うと、嫌でも3年C組の教室で体験した奇妙な出来事が蘇ってきた。
「それと関係あるかは分かんないんだけど……」
ぎゅ、と無意識のうちに拳を握り締めてしまう。
「教室で鍵探してるとき、机の中からいきなり手が現れたの。掴まれて……本当にびっくりした」
「うえ、何それ。気持ち悪いな」
「大丈夫だったの?」
朝陽くんに心配そうな表情を向けられ、慌てて頷いた。
「あ、うん。そのときは一応それだけで済んだけど……みんなも気をつけて」
そういった怪異があの化け物と関係しているのか、わたしたちに対して悪意を持って脅かしているのか、本当のところはまだ全然分からない。
ただ、警戒しておくに越したことはないだろう。