惨夢
「ま、とにかく化け物とそのよく分かんないやつに気をつけつつ鍵探しってことね」
「あとチャイムも……結局、謎に戻ったし」
「いや、そうじゃないかもしれない」
黙していた高月くんが口を挟んだ。
「1時間経過で1階ずつ崩落する。チャイムはその合図。この前提は間違ってないはずだ」
それはわたしもそう思った。
最初の夜は確かにそうだったから。
チャイムが鳴ったとき、1時間が経っていた。
それで1階は崩落したけれど、2階以上は無事だった。
「じゃあ何なんだよ?」
「昨日のチャイムは……たとえば、屋上が開いたことを知らせる合図だったとか」
全員の顔に戸惑いの色が浮かんだ。
屋上を開けたことが原因でチャイムが鳴り、崩落が始まった……?
「てことは、脱出にも時間制限があるってこと?」
「ああ。屋上が開いたら、校舎が崩れ去る前に急いで飛び降りなければならない。そういうことかも」
何となく腑に落ちる考察ではあった。
屋上の鍵を探す時間も有限で、脱出口が開いている時間も有限なのだ。
「なるほど……。確かにそうかもしんない」
朝陽くんも神妙に頷いた。
鍵を見つけて追われた彼は、最上階へ逃げていった。
チャイムが鳴ったタイミング的にも“ドアを開けた瞬間”というのはありえそうだ。
ちょうど1時間の経過が迫っていた頃でもあったから、はっきりとは言いきれないけれど。
「じゃ、まぁそれは……今夜確かめてみるってことで」
どことなく強張った声色ながら、普段通りの軽い口調で夏樹くんがまとめた。
それから、ちら、と黒板の方に目をやる。
「あの文字は? “人殺し”ってやつ」
思わずわたしも黒板を一瞥したけれど、当然そこには何も書かれていない。
「どう考えても“人殺し”はあの化け物の方だっつーの」
柚も眉をひそめ、不可解そうに腕を組む。
わたしも同感だ。
実際、全員が一度以上殺されている。
(何かを伝えたがってる、とか……?)
あれがあの化け物の言葉なら、という前提は伴うけれど、そう考えられなくもない。
それとも意味なんてなくて、単に脅かしたいだけ?
あの笑い声や机の中の手と同じように────。