惨夢

 困り果てたように夏樹くんが尋ねる。

「何か、しないといけないことがあるんだろうな」

 高月くんは視線を落としたまま言った。
 彼にしては珍しく曖昧(あいまい)なもの言いだ。

「それって……?」

「さぁ。正直、今の段階では見当もつかない」

 当然と言えば当然なのだけれど、そうも言っていられないだろう。

 時間は待ってくれないし、あの化け物もわたしたちの心情なんて(かえり)みてはくれない。

 死ねる回数には限りがあって、暢気(のんき)に構えていたらあっさりと命を削りとられる。

 どうしたって“残機”に焦らされた。
 ストレートにいくとあと4日、夏樹くんや高月くんに至ってはあと3日で、本当に死んでしまう。

 そういう意味では、夏樹くんの言っていたような“残機を増やす”という延命措置(そち)は、案外有効なのかもしれなかった。

 少なくとも考える時間を稼ぐことはできる。

「あー、やっぱ残機増やせたらいいのにね!」

 同じことを考えたらしい柚が言った。

「何だよ、おまえもそう思ってんじゃん」

 すかさず茶々を入れる夏樹くんの声を耳に、わたしは眉を寄せる。半信半疑だった。

(本当にそんな方法あるのかな?)

 “呪い”だと言うのなら、そんな救済が用意されているとは考えづらい。

 もっとも、永遠に夢に閉じ込めて殺し続けることが本望なら、ありえるかもしれないけれど。

「……そうだ」

 はたと思い出して、小さく呟く。

「どうかした?」

「昨日、朝陽くんが言ってたこと思い出したの。眠らなかったらどうなるのかな、って」

 眠らない限り、夢を見ることはない。
 そうすればやっぱり、殺されずに済むのではないだろうか。

「あー、それで死ななきゃ残機が減ることもないもんな! じゃあ俺、今日は寝ない」

 ずっとは無理でも、一度や二度なら何とかなるだろう。
 強行突破であの悪夢を拒否するわけだ。

「え、マジで? どうせ寝落ちするよ」

「しねーよ。絶対、今日はもうガチで寝ない」

 “寝落ち”という言葉にもうひとつ思い出した。

「ねぇ……。昼間に寝たらどうなるのかな?」
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