惨夢

 そう言ったわたしを、柚がまじまじと見返してきた。

「どうなるっても……同じじゃない? 夜と同じように夢の中で化け物に追われる」

 確かにそれはそうだろう。
 そんな方法であの悪夢を回避できるとは、わたしも思えない。

「でも、何か違いがあるかもしれない」

 たとえば、校舎の外側が明るい、とか。

 もちろんあれが夜の暗さでないことは分かっているけれど、もしかしたらそういうこともあるかもしれない。

 そうだったら怖い気持ちも半減するし、鍵も探しやすくなるだろう。
 その分、化け物に見つかるリスクも上がるけれど。

「それに授業中とかだったら、周りの人が起こしてくれるかも。そうやって起こされたら夢から覚められるのか、確かめてみたい」

 夢の中で殺されそうになっても、強制的に現実へ戻ってこられるのなら、それはある種の“希望”になりうる。

 あの悪夢が脅威じゃなくなるかもしれない。
 眠ることを恐れる必要はなくなる。

「どう、かな」

 窺うようにそれぞれを見やったけれど、大半は煮え切らない態度だ。

 そんな中、朝陽くんと目が合う。

「……うん、俺もそう思う」

「本当?」

「試す価値はあるんじゃないかな」

 控えめながらはっきりと賛成の意を示してくれた。
 ふっと全身の強張りがほどけていく。

「……確かにな」

 吟味(ぎんみ)するように黙り込んでいた高月くんも頷いた。

「それが有効なら、殺されるリスクを負わずに睡眠をとれる」

 残機を増やすことには直結しなくても、減らさずに済むのは大きい。

「……ねぇ、花鈴。もしかして次の授業中とかに試そうとしてる?」

 そんな柚の問いかけに「うん」と頷いた。

 不確かなことは早いうちに答えを見つけておくべきだろう。
 そうしないといつまで経っても前へ進めない。

 いくら真剣に悪夢や呪いと向き合ったところで、分からないと行き詰まってしまう。

「お、俺はパス。死にたくない!」

 身を逸らせた夏樹くんが首を左右に振って全力で拒絶した。

「ああ、何があるか分からないから全員で試すのはやめとこう。僕はやるけど、あとは?」

「わたしも」

 言い出したわたしが二の足を踏む理由はない。
 真っ先に名乗りを上げる。

「俺も寝てみる」

 朝陽くんもまた、そのスタンスを貫いてくれた。

「んー……。あたしはやめとく」

 苦く笑いつつ柚は拒んだ。
 夏樹くんも断固拒否といった具合にもう一度かぶりを振る。

 こく、と高月くんは眉ひとつ動かさずに頷いた。

「分かった。じゃあ僕と日南と成瀬で試すから、もし様子がおかしかったらすぐに起こして助けてくれ」
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