惨夢
柚が言いかけたとき、背後から聞こえてきた声がそれを遮った。
振り返った先にいたのは同じクラスの高月くんだった。
「えっ、朔? マジで? もうひとりっておまえなの?」
「そう! あたしが誘ったの」
信じられない、といった様子で高月くんの肩に腕を回す夏樹くん。
わたしもまったく同じ気持ちで、思わず朝陽くんと顔を見合わせた。
彼の方は単純に、何が起きているのか分からない、という戸惑いからだろうけれど。
「えー、めっちゃ意外」
夏樹くんが言いながら高月くんをまじまじと眺めた。
彼はいわゆる真面目な秀才タイプで、うちのクラスの委員長を務めている。
確かに夏樹くんの言う通り、こういうことに付き合ってくれるなんて意外だった。
「塾の帰りだったんだけどな……」
「でも、どうして?」
なぜ柚の誘いに応じてくれたのか、そもそも柚がなぜ彼を誘ったのか、首を傾げてしまう。
「あたしたち、実は幼なじみみたいなもんでさ。って言っても中学からの同級生なんだけど」
「僕はこいつに振り回されている被害者ってわけだ。想像つくだろ?」
迷惑そうに言う高月くんを見やり、夏樹くんともども苦笑いしてしまう。
確かにそういうことなら納得がいく。
強引な柚に何かと振り回される高月くんという構図は、彼の言う通り想像に難くない。
「……あの、さ」
控えめだけれどはっきりと、口を開いたのは朝陽くんだった。
「これ何の集まり?」
「よくぞ聞いてくれた! 成瀬、あんたも一緒に来なよ」
駆け寄った柚の圧を受け、朝陽くんは若干身を逸らす。
「え、どこに?」
「プール。今から忍び込んで、呼び出した幽霊に願いを叶えてもらうの!」
親指で学校の方を指し示し、得意気に言う柚。
困ったように彼はわたしの方を見た。
「何それ?」
「あ、何か……そういう怪談があるみたい」
跳ねた心臓が高鳴るのを自覚しながら、どうにか平静を装って答える。
びっくりした。
話しかけられるなんて思わなくて、心の準備が全然できていなかった。