惨夢
◇
授業が始まると、わたしはすぐに目を閉じた。
どこか緊張が拭えなくて眠れないのではないかと思っていたけれど、どうやらその心配は必要なさそうだ。
「……!」
10秒くらいそうしていただけで、明らかに周囲の空気感が変化した。
いつの間にか先生の声は聞こえなくなって、人の気配も薄れている。
肌に触れる温度は冷たくなり、ぞくりと背筋が凍てついた。
澄んでいるのにざらつくような、不快で重たい空気。
(夢だ)
眠りに落ちた感覚はないけれど、現実ではないことは確かだ。
ゆっくりと目を開けた。
──キーンコーンカーンコーン……
ノイズ混じりの、錆びついたような不気味なチャイムが鳴る。
「え?」
きょろきょろとあたりを見回して驚いた。
ここが教室で、自分の席にいるのは同じなのだけれど、空間が明るい。
窓の外は闇ではなく、眩しいくらいの白色に染まっていた。
射し込む光でものの輪郭が淡くぼやける。
(本当に明るいなんて……)
ふと、窓の向こうを眺めるふたつの背中を認めた。
「……日南の言ってた通り“違い”があるみたいだな」
振り向きつつ言う高月くん。
「ああ……。これが悪夢で、この校舎が空間に浮かび上がってるのは同じだけど」
校舎の外側の光景を見たらしい朝陽くんも続いた。
「鍵を探して屋上から飛び降りる、っていうのは一緒かな」
わたしは静かに席を立ちながら呟く。
何気なく黒板に目をやって、はっとした。
「あれ? 何も書かれてない」
なぜかまっさらな状態だった。
今までみたいに“飛び降りて死ね”とも書かれていないし、血で“人殺し”と書かれていた形跡もない。
「そうなんだよね。もしかしたら、夜の夢とはまったくの別物なのかも」
そんな朝陽くんの声を耳に、戸惑いながら教壇の方に足を向けた。
黒板へたどり着く前に、ふとあるものに気がつく。
「何これ……?」
授業が始まると、わたしはすぐに目を閉じた。
どこか緊張が拭えなくて眠れないのではないかと思っていたけれど、どうやらその心配は必要なさそうだ。
「……!」
10秒くらいそうしていただけで、明らかに周囲の空気感が変化した。
いつの間にか先生の声は聞こえなくなって、人の気配も薄れている。
肌に触れる温度は冷たくなり、ぞくりと背筋が凍てついた。
澄んでいるのにざらつくような、不快で重たい空気。
(夢だ)
眠りに落ちた感覚はないけれど、現実ではないことは確かだ。
ゆっくりと目を開けた。
──キーンコーンカーンコーン……
ノイズ混じりの、錆びついたような不気味なチャイムが鳴る。
「え?」
きょろきょろとあたりを見回して驚いた。
ここが教室で、自分の席にいるのは同じなのだけれど、空間が明るい。
窓の外は闇ではなく、眩しいくらいの白色に染まっていた。
射し込む光でものの輪郭が淡くぼやける。
(本当に明るいなんて……)
ふと、窓の向こうを眺めるふたつの背中を認めた。
「……日南の言ってた通り“違い”があるみたいだな」
振り向きつつ言う高月くん。
「ああ……。これが悪夢で、この校舎が空間に浮かび上がってるのは同じだけど」
校舎の外側の光景を見たらしい朝陽くんも続いた。
「鍵を探して屋上から飛び降りる、っていうのは一緒かな」
わたしは静かに席を立ちながら呟く。
何気なく黒板に目をやって、はっとした。
「あれ? 何も書かれてない」
なぜかまっさらな状態だった。
今までみたいに“飛び降りて死ね”とも書かれていないし、血で“人殺し”と書かれていた形跡もない。
「そうなんだよね。もしかしたら、夜の夢とはまったくの別物なのかも」
そんな朝陽くんの声を耳に、戸惑いながら教壇の方に足を向けた。
黒板へたどり着く前に、ふとあるものに気がつく。
「何これ……?」