惨夢

 教卓の上に紙が置いてあった。
 ノートを1枚、破ったものだ。

 刻まれているしわや折り目は、たぶんそのときについたのだと思う。

「何だ?」

 彼らもこちらへ歩み寄ってきた。

 紙を持ち上げると、かさ、と乾いた音が鳴る。

「“死んだら終わるのかな”……」

 そこに書かれていた内容を読み上げた。

 不安定な心情のままに書いたのか、文字が震えている。
 だけど筆圧は強くて、計り知れないほどの激情が窺えた。

「どういうこと……?」

 不穏で不可解な文章に、朝陽くんが困惑を(あらわ)にした。
 わたしも、恐らくは高月くんもまったく同じ気持ちで、推し量るように文字を見つめる。

「意味不明だな」

 高月くんはすぐに打ち切った。
 スマホを取り出して時刻を確かめる。

「12時……」

「え、12時?」

 耳を疑ったものの、確かに画面にはそう表示されていた。
 12時6分。

 おかしい。
 わたしたちが眠りについたのは1時間目の授業が始まってすぐだ。

「時間の流れは完全に狂ってる」

 壁かけの時計を見上げると、それは夜と同じだった。
 ぐるぐるとでたらめに針が回り続けている。

 時計や現在時刻からしても、夢の中は現実とは異なる時間が流れているのだろう。

「とにかく、急ごう。手分けして鍵を探さないと」

「それなんだけど、本当に夜と同じなのかな……?」

 明らかな違いを目の当たりにして、怯んでしまっていた。

 朝陽くんの言う通り、これが夜に見る夢とはまったくの別物だったら────。

 一番引っかかっているのは、黒板に何も書かれていないことだ。
 代わりにあるのはこの紙だけれど、これはヒントにもなっていない。

 夜と同じように“屋上から飛び降りること”で、本当に夢から抜け出すことができるのだろうか。

「分からないが、とにかくやってみるしかないだろ」

「だな。飛び降りるかどうかは鍵を見つけてから考えよう」

「……分かった」

 崩落までのカウントダウンは既に始まっている。
 人数が少ない分、尚さら時間を無駄にはできない。

 不穏な可能性と向き合うのも、この文字の意味を考えるのも、ひとまずあと回しにするしかない。

 かくして、1階を朝陽くん、2階を高月くん、3階をわたしがそれぞれ探索することになった。
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