惨夢



 西階段から3階へ上がると、まずは一番近いお手洗いを探してみることにした。

 今のところ、化け物の気配はない。
 もしかすると、夜と違って襲われることはないのかもしれない。

 そうだったらいい。
 そうであって欲しい。

 そんなことを考えながら、女子トイレに足を踏み入れた。
 明るいお陰か怖くはない。

 これが夜だったら、と想像すると身震いした。

 場所が場所なだけに怪奇現象と結びつけやすいし、何かが起こりそうな気配に包まれている。

(どこから……どう探せばいいんだろう?)

 教室以上に隠し場所がたくさんあるような気がする。
 ぐるりとあたりを見回した。

 掃除用具入れ、タンクの中、シンク、下手したら便器の中にあるかもしれない。

 そう思いついて、さらにはそこに手を入れる想像をして、つい顔をしかめた。

 だけど、躊躇(ちゅうちょ)している暇はない。

 これは夢だ、とどうにか割り切って、まずはひとつ目の個室を開けた。



 明るいとかなり探しやすいものだった。

 スマホでライトをつけておく必要もないから両手を使えるし、バッテリーや光源を失う心配もない。

 順調にふたつの個室を調べ終え、3つ目のドアを開ける。

 タンクの蓋を開け、音を立てないよう床に置いておく。
 その中を覗き込むと、前のふたつとは違ってなぜか水がなかった。

 代わりに、あるものが目に留まる。

「紙……?」

 管などの部品に触れないよう慎重に手を伸ばし、その紙きれを掴んで取り出した。

 教卓の上で見つけたものと同じように、くしゃりとしわや折り目が入っている。

 ふたつに折りたたまれていたそのメモ用紙を広げてみた。

「“たすけて”?」

 たった4文字、だけど無視できないような言葉が書かれている。

 教室にあったものと同じ人物が書いたのだろうか。
 いったい誰が? まさか、あの化け物が?

 わけが分からなくて、眉間に力が込もった。
 戸惑いに明け暮れてしまう。

(どういうことなの……?)
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