惨夢
先ほどのようにその問いが込み上げてくるけれど、結論にたどり着くまでの道筋へ踏み込む前に、大きな困惑に飲み込まれた。
どのみち、ここでひとりで考えあぐねていたところで答えを出せる気がしない。
(今はそんな場合じゃないよね……)
とにもかくにも鍵を探さなきゃ。
無駄に残機を減らすことだけは避けたい。
メモを折りたたみ、ポケットにしまおうとしたところではたと動きを止めた。
夢の中で得たものは、現実に残らない。
鍵がそうだったように、これもそうかもしれない。
だけど、みんなと相談したい。
もしかしたら朝陽くんや高月くんも、同じようなメモを見つけている可能性がある。
(あ、そうだ。写真)
メモを置くと、スマホを取り出して写真におさめておいた。
現実へ持ち帰れるかは分からないけれど。
それからポケットへしまうと、残りの個室や掃除用具入れ、水道の方も調べて回った。
────結果として鍵はひとつ、家庭科室のものを見つけた。
昨晩に比べたらいいペースだ。
(次は男子トイレ……)
入るのに抵抗はあるけれど、そうも言っていられないだろう。
鍵をポケットに入れたわたしは廊下へ出た。
「……!」
そのまま右へ向かおうとして、唐突に身体が強張る。
ただならぬ気配を察知し、本能が警告していた。
恐る恐る顔を上げると、北校舎側へと続く廊下の先に人影が見えた。
明るいせいで、くっきりとその風貌が窺えてしまう。
びしょ濡れで血まみれの女子生徒。
折れた首は、挑発的に傾げられているように見えた。
「ひ……っ」
飛び散った赤色やぎらつく鉈が鮮烈に脳裏を貫く。
あまりの恐怖にいすくまった。
呼吸を忘れた一瞬の間に、その恐ろしい形相が目の前に現れた。
「!」
さっと遅れて風が起こる。
濡れそぼつ簾のような長い髪の隙間から、色のない肌が覗いている。
こちらを睨めつける双眸は眼球一面が真っ黒に染まっていた。
それでいて血走っているように感じられる。
──ぽた……ぽた……
滴る雫の音がやけに大きく耳に届いて、ようやく止まっていた時間が動き出した。
「いやあああっ!」