惨夢
それにあの髪も、夢の中での出来事だったはずなのに。
どうして現実に反映されているのだろう。
悪い予感が渦巻いて、ぞわぞわと肌が粟立つ。
鏡の中の自分を眺めていると、水滴が輪郭をなぞるように滑り落ちていった。
「……っ!」
それが夢で見たあの化け物の様相と重なって、思わず後ずさる。
ぐい、と拭うと逃げるように廊下へ出た。
「……あ、戻ってきた」
教室に踏み込むと、わたしの席の周りに4人が集まっていた。
柚と夏樹くんは空席に座っていて、朝陽くんと高月くんは立ったまま。
窺うような案ずるような視線を一身に浴びながら、わたしも自分の椅子に腰を下ろした。
机の上の髪はティッシュにくるまれている。
柚がそうしてくれたのだろうか。
「その、怪我……」
遠慮がちに朝陽くんが口を開く。
どうにか血は止まったけれど、赤い線はくっきりと濃く、異様な存在感を放っている。
「たぶん、夢と現実がリンクしてたんだと思う」
その声は自分でも思っていた以上に硬く引きつったものになった。
「髪もこの傷も、確かに夢の中で……」
「あっぶな。じゃあ、夢で殺されてたらマジで死んでたってこと?」
「……本当に危うかった。あのまま屋上から飛び降りてたら、僕たちは────」
実際に死んでいた、かもしれない。
黒板の文字もなかったし、その方法が生きてあの夢から抜け出す手段であった可能性は低い。
“死んだら終わるのかな”。
もしかすると、わたしたちは直接的に死へ誘導されていたのかもしれない。
「……大丈夫?」
そう気にかけてくれる朝陽くんの優しさに感謝しながら、こくりと小さく頷いた。
きゅ、とわたしは膝の上で両手を握り締める。
「本当にごめん。危ない目に遭わせちゃって……」
どれほど危険かを知らなかったとはいえ、日中に眠ることを提案したのは紛れもなくわたし自身だ。
下手したら、彼らを死に追いやっていたかもしれない。