惨夢
「花鈴のせいじゃないって」
「ああ、謝らないでくれ。自分で決めたことだ」
即座にそう言われ、自責の念がほどけていく。
染み入って噛み締めるように目を伏せつつ、柚や夏樹くんに向き直った。
「起こしてくれてありがとう。ふたりのお陰で助かったよ」
あのとき柚の声が聞こえなかったら、と思うと震え上がってしまう。
命の恩人と言えた。
「なに言ってんの、そんなん気にしないでよ」
「……つーか、こうなったらもう夜に見る夢とはまったくの別もんって認識で合ってるよな?」
夏樹くんの言う通りだろう。
少なくとも夜の夢が現実に直接干渉してくることはなかった。
負わされた傷も目覚めれば消えていたし、死が残機という形で影響してくる以外、あくまでただの“夢”でしかなかった。
「そうだな。恐らく夢は2種類ある」
高月くんも同調する。
区分は“日没前”と“日没後”────だろうか。
「日中の夢は、夢の中での死は現実での死を意味する。残機がいくつあろうと即死だ。傷なんかもリアルとリンクしてる。こっちの場合、たぶん外部から誰かに起こしてもらう以外に目覚められない」
わたしの身に起きたことを思えば、それはきっと誰からしても疑いようのない事実だろう。
実際に“日没前の夢”を経験していない柚と夏樹くんも、想像や理解に難くないと思う。
「夜の夢の場合、夢の中での死は残機マイナス1だな。夢から覚める方法は知っての通り、屋上から飛び降りること」
ただし、屋上へ続くドアには必ず鍵がかかっており、校舎内のどこかに隠されているそれを見つけなければならない。
各教室も毎回ランダムで施錠されていて、その鍵も探す必要があるわけだ。
────悪夢の概要を、ようやく明確に掴めてきた。
“寝ない”という選択をすれば、確かに夢を拒否することができる。
だけど、それを永遠に繰り返すことは不可能だ。
たとえば、交代で不寝番を立てて、みんなで交互に睡眠をとるのはどうだろう?
殺される前に起こすことができれば、死ななくて済むし残機が減ることもない。
(でも……)
あまり有効ではないかもしれない、とすぐに思い直した。
そもそも起きている側には夢の中の状況なんて分からない。
お互いが中途半端な眠気を日中まで引きずると、不意に寝落ちして“日没前の夢”に収容されかねない。
そう考えると、逆に危険な可能性が高いような気がする。