惨夢
「考えようぜ、終わらせる方法」
普段通りの明朗な口調で、だけど真剣に、夏樹くんが言う。
そうだ、今のわたしたちは八方塞がり。
“日没前の夢”を避けたところで、結局夜には眠らなければならない。
“日没後の夢”でも死ねば残機を失う。
すべて失ったら、その場合も待っているのは本当の死なのだ。
悪夢そのものから抜け出さないことには、いつでも死と隣り合わせだ。
『何か、しないといけないことがあるんだろうな』
そんな高月くんの意見を、漠然とは理解できるのだけれど、具体的に考えようとしても切り口を見つけられないでいた。
「何か……メモがあったんだよね? “死んだら終わるのかな”だっけ」
柚が怪訝そうに言う。
ひとまず、無視できないような疑問点から整理していく判断をしたようだった。
先ほど見た夢の内容については、わたしが席を外している間に共有しておいてくれたみたいだ。
「そう。……遺書みたいだよな」
ぽつりと朝陽くんがこぼす。
教卓にあったメモは、少なくとも自殺を視野に入れているような、希死念慮をほのめかすものだった。
「あの化け物が書いた?」
そんな夏樹くんの言葉に、ふと最初の夜に見た光景が蘇ってくる。
屋上から転落していく姿────。
あれは、彼女の最期の瞬間だった?
「……わたし、それ以外にもメモ見つけた」
おもむろに口を開き、特に朝陽くんや高月くんの反応を窺う。
「えっ」
「マジで? どこで? どんな?」
驚きを顕にする柚たちと同様の表情だった。
どうやら彼らの方はメモを見つけていないようだ。
「3階の女子トイレで……。“たすけて”って書いてあった」
そう答えたとき、念のため写真におさめていたことを今思い出した。
ポケットを探り、スマホを取り出す。
「たすけて……?」
「それってあたしたちに何か助け求めてんの? あの化け物が?」
「ほかの怪異の仕業という可能性もある」
「え? じゃあ化け物があの空間に別の幽霊を閉じ込めてる、みたいなことか? それで助けろって?」
それぞれの憶測を耳にしながら、アルバムを開いてみる。
(あった……!)
カメラロールの中には、意外なことにちゃんとあのメモの写真が残っていた。
「これ!」
画面を彼らの方へ向ける。
“たすけて”────ただならぬ気配を孕んだ4文字が、不穏さを助長させていく。
それぞれの表情が険しくなった。
惑いを吐き出すように高月くんが深く息をつく。
「……一筋縄ではいかなそうだな」