惨夢
◇
しゃっ、とカーテンを閉める。
時刻は22時半、窓の外はもう真っ暗だ。
それでも、夢で見る校舎の外側よりは明るく感じられた。
「…………」
眠る気にはなれないけれど、眠らずに何か不測の事態が起きたら怖い。
そうやって睡眠不足を持ち越して、不意に“日没前の夢”に引きずり込まれるのも恐ろしい。
そういう区分けなら、きっと何時に寝ても同じなのだろう。
それが日没前なのか日没後なのかで、閉じ込められる夢の世界が変わるだけ。
その中で目覚めたら、時刻は強制的に12時か0時になっている。
現実世界とは異なる時の流れに左右される。
わたしは鏡の前に立ち、頬の傷を確かめた。
事情を知らない友だちや両親に心配されるたび、どうにか適当に誤魔化していた。
けれど、これが目に入るたび、すぐ背後までひたひたと寄ってきていた死の気配を思い知らされた。
実際、あてがわれた死神の鎌で首を落とされる寸前だったのだ。
うかうかしている暇はない。
やらなきゃいけないこと、考えなきゃならないことはたくさんある。
だけど、そのためにはまず情報が必要だ。
(トイレで見つけたメモ、あれと同じようなものがほかにもあるかも)
考えるにあたって手がかりになりそうな、唯一の代物だ。
それが本当にほかにも存在しているのか、していたとして“日没後の夢”でも見つけられるのか、確かめないと。
ただ鍵を探して屋上から飛び降り、残機を減らさないように延命する────それだけでは、そう遠くないうちに限界が来る。
悪夢から抜け出して終わらせる方法を考える、そのためにできることをしよう。
どんなに怖くても立ち止まっている時間はない。
今夜殺されたらまた、死に一歩近づいてしまう。
何もできないまま、死ぬのを待つだけなんて嫌だ。
◇
──キーンコーンカーンコーン……
重々しいチャイムの音に目を開ける。
瞼の裏とさして変わらないほどの暗闇が広がっていた。
取り出したスマホでライトをつけ、音を立てないよう静かに席を立つ。
その一連の動作にいつの間にか慣れつつあった。
「……なんだ、あんたも寝たんだ」
全員が起きたあと、柚が夏樹くんに言う。
「だ、だって……こえーじゃんか!」
彼女は別に責めているわけではないのだろうけれど、夏樹くんの口調はどこか言い訳っぽくなっていた。
絶対に寝ない、と宣言した手前、少しきまりが悪かったのだと思う。
事情が変わって、日中に寝落ちする方が危険だと分かって、きっと眠らざるを得なかったんだ。
しゃっ、とカーテンを閉める。
時刻は22時半、窓の外はもう真っ暗だ。
それでも、夢で見る校舎の外側よりは明るく感じられた。
「…………」
眠る気にはなれないけれど、眠らずに何か不測の事態が起きたら怖い。
そうやって睡眠不足を持ち越して、不意に“日没前の夢”に引きずり込まれるのも恐ろしい。
そういう区分けなら、きっと何時に寝ても同じなのだろう。
それが日没前なのか日没後なのかで、閉じ込められる夢の世界が変わるだけ。
その中で目覚めたら、時刻は強制的に12時か0時になっている。
現実世界とは異なる時の流れに左右される。
わたしは鏡の前に立ち、頬の傷を確かめた。
事情を知らない友だちや両親に心配されるたび、どうにか適当に誤魔化していた。
けれど、これが目に入るたび、すぐ背後までひたひたと寄ってきていた死の気配を思い知らされた。
実際、あてがわれた死神の鎌で首を落とされる寸前だったのだ。
うかうかしている暇はない。
やらなきゃいけないこと、考えなきゃならないことはたくさんある。
だけど、そのためにはまず情報が必要だ。
(トイレで見つけたメモ、あれと同じようなものがほかにもあるかも)
考えるにあたって手がかりになりそうな、唯一の代物だ。
それが本当にほかにも存在しているのか、していたとして“日没後の夢”でも見つけられるのか、確かめないと。
ただ鍵を探して屋上から飛び降り、残機を減らさないように延命する────それだけでは、そう遠くないうちに限界が来る。
悪夢から抜け出して終わらせる方法を考える、そのためにできることをしよう。
どんなに怖くても立ち止まっている時間はない。
今夜殺されたらまた、死に一歩近づいてしまう。
何もできないまま、死ぬのを待つだけなんて嫌だ。
◇
──キーンコーンカーンコーン……
重々しいチャイムの音に目を開ける。
瞼の裏とさして変わらないほどの暗闇が広がっていた。
取り出したスマホでライトをつけ、音を立てないよう静かに席を立つ。
その一連の動作にいつの間にか慣れつつあった。
「……なんだ、あんたも寝たんだ」
全員が起きたあと、柚が夏樹くんに言う。
「だ、だって……こえーじゃんか!」
彼女は別に責めているわけではないのだろうけれど、夏樹くんの口調はどこか言い訳っぽくなっていた。
絶対に寝ない、と宣言した手前、少しきまりが悪かったのだと思う。
事情が変わって、日中に寝落ちする方が危険だと分かって、きっと眠らざるを得なかったんだ。