惨夢

 ぱっと高月くんが黒板を照らした。

「!」

 “飛び降りて死ね”と、ちゃんと殴り書きされている。

 思わずほっとした。
 まさかその文言に安心するときが来るなんて思いもしなかった。

「じゃあ急ごう。分担は────」

「お、俺……1階は嫌だ」

 ふるふると首を横に振りながら、怯えたように夏樹くんが言う。

 確かに階層が低い方が危険で怖いようなイメージがあった。
 間に合わなければ、真っ先に崩落に巻き込まれる。

 かといって致死率と比例しているかと言われれば、今のところは確実にそうというわけでもない。

「なら、どこがいいわけ?」

「4階」

「えー、一番あと回しでいい……とも言いきれないか。そこに1階のどっかの鍵があるかもしんないし」

 そういう意味では、分担を決めるにあたって正解があるのかどうか微妙なところだった。

 さっさと1階を調べ終えて足りない鍵を明らかにするのが大事だ、というのは合っている気がするけれど。

「じゃあわたしが1階探すね」

 こうしている時間も正直もどかしい。
 崩落への秒読みは既に始まっている。

「俺も行く。少なくとも1階はふたり以上いた方がいいでしょ?」

 朝陽くんが名乗り上げてくれると、即座に「そうだな」と高月くんが同意した。

「そしたら柚が3階、僕が2階で、乾は4階」

「おっけー。行こ!」

 朗々(ろうろう)と軽い調子で柚が答える。

 そっと廊下に出て、階段のところでそれぞれ別れた。



 足音に気を配りながら、慎重に段を下りていく。

 1階へたどり着くと、前を歩いていた朝陽くんが足を止める。
 西階段側を下りてきたため、ちょうどホールに出た。

 しん、とあたりは静まり返っている。

「北校舎か南校舎、どっちがいい? それか先に昇降口の方調べる?」

 昇降口とホールは繋がっていて、ホールから北校舎と南校舎がそれぞれ左右に別れていた。

 今、彼に聞かれるまで昇降口の存在を忘れていたけれど、思わず苦い気持ちになった。

 ひとつひとつ扉つきの靴箱で、それが何列も連なっている。
 かなり時間を要しそうだ。

「昇降口から探そう」

「分かった。じゃあ俺、とりあえず南側から見てくから、花鈴は北側お願い」

「うん」
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