惨夢

 廊下へ出ると、ホールから昇降口の方が窺える。

 白いライトの光が動いているのを確かめてから、わたしは南側へと急いだ。

 進路指導室の扉に鍵を挿して回し、スライドさせると中へ入る。

 初めて入ったけれど、それほど広くはない。

 テーブルと椅子がそれぞれ何セットか並んでいて、壁に沿って棚が置いてある。

 そこにはファイルや本がぎっしり並べられていた。
 様々な資料だったり、模試や入試の過去問題集だったりするのだろう。

(これ……本の隙間に、とかないよね?)

 そんなところにまで鍵が隠されていたら、見つけることは到底不可能だ。

 一冊ずつ確かめていたらきりがない。
 ここだけでも骨が折れる。図書室なんて一晩かかっても終わる気がしない。

 本やファイルは一旦諦め、わたしはそれ以外の箇所から探していくことにした。

 そうなると、意外と隠し場所は少ない。

 周囲に明かりを振り向けながら、静かに椅子を引いてみる。

「え」

 思わず声が出た。
 座面の上にぽつんと鍵が置かれていたから。

 プレートには“1-G”とある。

 屋上のものではないとはいえ、あまりにも順調に鍵が見つかって逆に気味が悪いくらいだ。

(ここにはもう、ほかの鍵はないのかな)

 これまでの流れからすると、ひと部屋につきふたつ以上の鍵が見つかった例はない。

 そんな法則があるとしたら、これ以上ここに居座るのは時間の無駄だろう。

 時刻を確かめた。
 1階の崩落まで、あと35分だ。

 正直、今から棚の中身をひっくり返して本やファイルの隙間を1冊ずつ確かめる気にはなれなかった。

 隣の教室にこそ屋上の鍵があるかもしれないのだ。

 もちろん、この進路指導室からふたつ目の鍵が出てきて、それが屋上のものである可能性だってあるけれど……。

 時間に余裕はない。
 少しでも多くの教室を確かめておきたい、という心理が働いた。

 どのみち賭けだ。
 だったら、前者の可能性を信じてみよう。

 わたしは1年G組の鍵をポケットに入れ、進路指導室をあとにした。



 それから約20分くらいかけ、南校舎側を調べ終えた。

 6部屋あるうち、開いたのは進路指導室を含めて3部屋。
 大会議室と相談室で、どちらからも鍵は見つからなかった。

 もう一度進路指導室に戻ってみる、という選択肢も頭によぎったけれど、その前に朝陽くんと合流することにした。

 北校舎側の進捗(しんちょく)はどうだろう?
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