惨夢

 腰のあたりで分断された身体は、追い討ちをかけるようにぐちゃぐちゃにかき混ぜられて潰れていた。

 顔の判別もつかない。
 どの部分がどの身体部位だったのかも分からない。

 ただ、真っ赤な()き出しの骨身(ほねみ)と臓物が、血溜まりに揺蕩(たゆた)うばかりだ。

「……っ」

 愕然(がくぜん)として力が抜け、膝から崩れ落ちた。
 ぶわ、とむせ返るような血なまぐささが鼻につき、咄嗟に手で覆う。

 怖い。ひどい。
 いつの間にこんなことになっていたのだろう。

 混乱に溺れながらも、頭はまだかろうじて冷静さを保てていた。

(これは夢……。ただの夢……)

 呪文のように心の内でそう繰り返していたからだ。

 残機はひとつ減ってしまうけれど、起きたら彼は生き返っている。

(大丈夫……)

 そう言い聞かせていないと、実際には今にも発狂してしまいそうなほどぎりぎりの精神状態だった。

 彼の死を無駄にしないためにも、やるべきことをやらなきゃならない。

「うぅ……」

 朝陽くんだったものに震える手を伸ばし、肉塊をかき分けた。

 感触‪を頼りに鍵を探す。

 昇降口や北校舎側を調べた成果が上がっているかもしれない。

(あった……)

 果たして鍵をふたつ見つけていたようだ。
 血まみれで真っ赤だ。

 プレートを照らすと、2年E組と1年B組のものだと分かった。

「ん……?」

 血溜まりの方に向けた光が、思わぬものを照らし出した。
 浮いて漂う小さな紙だ。

 “日没前の夢”で見つけたメモと同じようなものかもしれない。
 はっとして慌てて拾い上げる。

 一部分が血に侵食されてふやけていたものの、文字は判別できた。

「“裏切り者”……?」

 ──びちゃっ

 ──ぽた……ぽた……

 突如として血溜まりが跳ねて、息をのんだ。

「……!」

 恐る恐る顔を上げると、化け物が悠々(ゆうゆう)とこちらを見下ろしている。

 滴る雫が足元の血に吸い込まれていく。
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