惨夢
死んだのはわたしと朝陽くん、夏樹くん。
柚と高月くんのふたりは生き延びられたみたいだ。
「……俺はおまえのせいで死んだんだよ」
底冷えするような声で夏樹くんが言った。
その目が憎々しげにわたしを捉えていて、それで“おまえ”がわたしを指しているのだと気がついた。
「え……」
「おまえがあの化けもん引き連れてきたせいで!」
ばっと袖を捲った腕を叩きつけるようにして提示してくる。
くっきりと鮮やかな線が2本刻まれている。
たった2本だけ、という事実にぞくりとした。
わたしがそうなのだから、彼自身はもっと恐ろしいはずだ。
1本しか変わらないはずなのに、比にならないくらいの焦りと恐怖がのしかかってくる。
「ご、ごめん……! わたし、そんなつもりじゃ────」
「謝るくらいならおまえの残機くれよ!」
掴みかかる勢いで肩を揺さぶられ、いすくまって身を縮めた。
怖い。
その力の強さも、血走った目も、非難の言葉も。
「ちょっと落ち着けよ。やめろって、夏樹」
困惑しながらも朝陽くんが引き剥がしてくれた。
でも、まだ掴まれているみたいに肩のあたりに痛みが残っている。
「そうよ……。いきなりどうしちゃったわけ?」
柚も困り果てた様子でわたしと夏樹くんを見比べた。
夏樹くんは不機嫌そうに顔を背け、口を噤んでいる。
「き、昨日、化け物に追われて上に逃げたの……。もしかしたら屋上開いてるかも、って」
つい彼の反応を窺ってしまいながら、細い声で説明した。
「それで?」
「結局開いてなくて殺されたんだけど、すぐ近くに夏樹くんが隠れてて」
言っているうちに死に際に見た昨晩の光景が克明に思い出された。
怯えた眼差しで、不安そうに膝を抱えていた彼。
追われているわたしに気づき、慌てて隠れた先にわたしが逃げ込んだせいで巻き込んでしまったのかもしれない。
「あんたはそんなとこで何してたの?」
不審がるように柚が尋ねる。
「お、俺は……隠れてたんだよ」
「鍵も探さずに?」
「それは……」
言い淀む夏樹くんの目が泳いだ。
ばつが悪そうに狼狽え、必死で言葉を探しているみたいだ。
「……花鈴は悪くないと思うんだけど」