惨夢

 落ちた沈黙を破ったのは朝陽くんだった。
 わたしは弾かれたように顔を上げる。

「そうだね、夏樹の自業自得じゃん」

「はあ!?」

「だってそうでしょ。自分で4階調べるって言ったくせに、それもしないでただ隠れてただけなんだからさ」

 柚が容赦なく切り捨てた。

「誰かが鍵見つけてきてくれるのを待ってたわけ? 高みの見物して、真っ先に逃げようって」

「……っ!」

 かっと頭に血を上らせたらしい夏樹くんが、柚を力任せに突き飛ばした。

 小さく悲鳴を上げてよろめいた柚は、近くにいた高月くんの腕を咄嗟に掴む。

 彼もまた素早くその手を引っ張るように支え、お陰でことなきを得た。

「何すんの!?」

 夏樹くんに向き直った彼女が血相(けっそう)を変える。

「うっせぇ、おまえには分かんねーよ! 残機に余裕あんだから!」

 彼もまた負けじと吠えた。

 現状、柚の残機は4だ。そう言われては確かに何も言い返せない。

「夏樹────」

 ガンッ! と机が蹴飛ばされた。
 (なだ)めるように呼びかけた朝陽くんの声を遮るように。

 夏樹くんはいらついた様子のまま、教室から出ていってしまう。

「夏樹くん」

「いいって、もうほっときなよ」

 追いかけようとしたものの、柚に引き止められた。

「でも……」

 昨晩の彼の死には、どうしても責任を感じてしまう。

 減り続ける残機に焦って、とことん消極的になっていた彼の気持ちも理解できる。

 確かに先ほどはやりすぎだったと思うけれど、夏樹くんだけを“悪”とみなして責めるのは違う気がする。

 本当にこのまま放っておいていいのだろうか。

 ただでさえ不安な中、孤立してしまうんじゃないだろうか……。

「一旦無視するしかないだろ。ひとりになればそのうち頭冷やして戻ってくる」

「あいつのことはもういいから、昨日のことまとめようよ」

「……うん」

 高月くんと柚に押し切られ、それ以上は何も言えなくなった。

 向き合わなきゃいけない問題は確かに山積みだ。

 時間がないのは、死が迫っているのは、わたしたちだって同じこと。

(残機を増やす方法、早く見つかればいいのに)

 もちろん、あれば、の話だけれど……。
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