惨夢

「伝えたいことがあるのかも……」

 そう言ったはいいものの、自信なさげな声色になる。

「でもさ、もう死んでんだから助けようがないじゃん。てか襲ってくるくせに“たすけて”も何もないでしょ」

 すぐさま柚から反論を受けた。
 それはそうだ。むしろ助けて欲しいのはこちらだ。

 けれど、だからといってあれらの言葉を無視はできない。切り捨てられない。

 何らかの意味があるからこそ、わたしたちの目に触れるように、黒板の文字が変わったりメモが置かれていたりしたのだと思う。

「────そもそも、あいつ(、、、)は誰なんだ?」

 不意に高月くんが疑問を(てい)した。

 はっとする。
 でもその割にすんなりと耳や脳が言葉を吸収していく。

 いずれにしても、あの化け物が何者なのか、なんてわたしは考えもしなかった。

 そのはずなのに、失念(しつねん)していたことを不意に思い出したような感覚だ。

 彼女の正体が分かれば、呪いの全容を掴めるかもしれない。
 そこから助かる方法を探れるかもしれない。

 そんな思いが強まって、心臓がどきどきした。

「誰って言っても……」

 朝陽くんが困惑気味に眉を寄せる。
 無理もなかった。

 脅威的な存在であることは痛いほど分かっているけれど、個人として識別するには値しない。

「裏サイトに何か情報は載ってなかったか?」

「んー……。なかったと思うけど」

 柚はそう答えながら、取り出したスマホを素早く操作する。

 例のページを確かめてみるけれど“女子生徒の霊”以上の情報はなかった。

「……あ」

 はたと思いついたとき、無意識のうちに声がこぼれていた。

「あの化け物、うちの学校の制服着てたよね」

 濡れそぼっていても、血まみれでも、それだけは確かに分かった。

 この学校にまつわる怪談になっていることからしても────。

「もともとはここの生徒なんだ……」

 ぽつりと朝陽くんが言う。

 また、さっきみたいに空気がたわんで、今度はすぐにぴんと張り詰めた。

 わたしはじっと宙を眺める。
 目の前を見ているようで、どこにも焦点(しょうてん)は合っていない。

 可能性を模索(もさく)するうちに現実の外側へ意識が飛んで、でも思考はその場に留まり続けていた。

 だから高月くんの次の言葉は、まさしくわたしも考えていたことで、予想通りのものだった。

「調べてみないか? 化け物の正体を」
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