惨夢

 吟味(ぎんみ)するように、あるいは意表(いひょう)を突かれたように、それぞれが高月くんを見返したまま口を(つぐ)んでいた。
 ささやかな沈黙が訪れる。

 同意見だということを伝えて賛成しようとしたけれど、その前に柚が反応した。

「何のために?」

 それは予想外に否定的な声色で、驚いたわたしは思わず彼女の方を見やる。

 その視線を非難的な意味合いに捉えたらしく、柚は「いや」と言い訳するようなテンションでとりなすように笑った。

「だってさ、意味なくない? 化けもんが誰なのか分かればぜんぶ終わらせられるわけ?」

 そう言われると確かにそうなのかもしれない。

 化け物が、あの女子生徒が、かつてうちの学校に通っていたとして、その事実そのものと悪夢や呪いに直接の因果(いんが)関係はないかもしれない。

 だったら柚の言う通り、それを調べる意味なんてないのだろうか?

 そんなことを考えていると、高月くんがため息をついた。
 一度目を伏せ、再び視線を戻したとき、その顔に怒りが宿っていることに気がつく。

「……元はと言えばおまえが巻き込んだんだろ」

 眉をひそめたまま、柚に言った。
 彼女は一瞬呆気(あっけ)にとられていたもののすぐに言い返す。

「それはそうだけど……! もうその話は持ち出さないって前に────」

「僕が責めてるのはそういうことじゃない。おまえも責任を持てって言ってるんだ」

「はぁ? 何の?」

「終わらせる方法考えるのに積極的になるべきだろ」

「なってんじゃん! あたしだって終わらせたいよ! 死にたくないし」

「だったらいちいち水差すなよ。可能性が低くても何でも試してくしかないだろ! このまま手をこまねいてたらどのみち死ぬんだぞ!」

 ふたりの口論に圧倒されて、わたしは声を出せないでいた。

 普段は冷静沈着(ちんちゃく)な高月くんがこんなに感情的になるなんて意外で、そういう意味でも余計に驚いてしまう。

「そんなこと……言われなくても分かってるわよ!」

 気圧(けお)されていた柚だったけれど、我を取り戻すと強気でそう返した。
 ばっ、と今度は身体ごとわたしに向き直る。

「花鈴。ねぇ、花鈴はあたしの味方だよね?」

「え……っ?」
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