惨夢
勢いよく両肩を掴まれた。
圧をかけるようなもの言いと痛いくらい強い力に怯んでしまう。
(急にそんなこと……)
戸惑いを禁じ得ず、柚を見返す瞳が揺れているのを自覚した。
困ってしまって逃れるように視線を逸らすと、思わず朝陽くんに目をやる。
彼も彼で唖然としていたけれど、目が合ったことで我に返ったようだった。
口端を結び、こくりと頷き返してくれる。
それを受けてもう一度柚に向き直ると、冷静さを失っているその双眸を覗き込んだ。
「うん、味方だよ。友だちなんだから」
そう言った瞬間、目の色が変わる。
「じゃあもう行こ! あたしたちはあたしたちだけで動くから」
わたしの手首を掴み、鋭い眼差しを彼らに振り向けた彼女は、勝手にそう宣言してしまう。
「あんたらは好きにすれば」
ぐい、と強引に引っ張られ、身体が傾く。
混乱したままのわたしは拒んだり抵抗したりすることを忘れてしまっていた。
「おい、柚────」
困惑したような高月くんに引き止められても、柚はすたすたと歩き出した足を止めない。
「柚……」
わたしが呼んでも、まるで聞こえていないかのように無視されてしまった。
(どうしてそうなるの)
高月くんから頭ごなしに責められたことが不服なようだけれど、彼は別に柚を悪者に仕立てあげようとしていたわけじゃない。
彼の言い分は正しいと思う。
そしてそれは、柚以外の全員にだってあてはまること。だからこそ協力するべきなのに。
「……本当うざい。みんなあたしが悪いみたいに」
ぽつりとこぼした彼女の声は普段より低くて、ぞっとしてしまう。
さっきわたしが頷いていなければ、その怒りの矛先はわたしにも向いていたかもしれない。
「あーあ、もうさっさと死ねばいいのに。夏樹も朔も……成瀬も」
心臓が冷たい音を立て、ざわざわと騒いでいた。
つい怯えた目を向けてしまう。
(怖い……)
どうしてそんなことが言えるんだろう。
友だちなのに。同じ立場なのに。手を取り合うべき仲間なのに。
彼女とは親友だったはずだけれど、こんな残酷な一面は知らなかった。
悪夢や呪いという現象がそうさせているのかもしれないけれど。
夏樹くんは孤立へと向かっていて、わたしたちの間にも亀裂が入ってしまった。
何より柚の剥き出しの敵意は、凶暴な危うさを孕んでいるような気がした。