惨夢

 柚より先に安堵(あんど)してしまった。
 肩から力が抜け、思わず頬を(ほころ)ばせてしまう。

 わたしが危惧していたような状況にはならずに済みそうだった。
 このまま、夏樹くんとも仲直りできれば────。

「成瀬もごめん」

「え? 俺、何かされたっけ?」

 高月くんとひとまとめに“好きにすれば”と突き放されていた。

 それから、柚は確かにひどいことを口にした。
 彼自身には、そして夏樹くんと高月くんにも直接は届いていないけれど。

「……ごめん」

 彼女は唇を噛み締め、もう一度謝った。
 あの発言を悔いて、心から反省している。

「う、ん。何かよく分かんないけど、いいよ」

 戸惑ったように頷いてから、朝陽くんは人懐っこい笑みをたたえた。
 今朝はあんなに険悪(けんあく)だったはずの空気が、今やまるごと浄化されたような気がした。

「夏樹は? どこ行ったの?」

「いないよね。荷物がないから早退したのかも」

 ちら、と思わず彼の席に目をやる。
 今朝の様子を思い出し、何だか漠然(ばくぜん)と胸騒ぎを覚えた。

(大丈夫かな?)

 しきりにそう心配してしまうくらい、彼の顔色はよくなかったしまるで余裕を失っていた。
 のしかかってくる恐怖と孤独に耐えきれるだろうか。

 だけど案じていたらきりがない。
 今は目の前のことに集中しなきゃ、と思い直す。
 命が懸かっているのはみんな同じことだ。

「それで……高月くんは何を言いかけてたの?」

 そう聞くと、ああ、と用件を思い出したように真剣な顔つきになる。

「実はさっきの時間、成瀬と色々調べてたんだ。あの化け物について」

 どきりとした。
 図らずも気が引き締まる。

「分かったの?」

「ああ。……正体も死んだ経緯(いきさつ)も」

 こともなげに頷いた高月くん。
 思わず柚と顔を見合わせた。
 これほどスムーズにたどり着くなんて、と驚きの(かたわ)らで拍子抜けしてしまう。

「これ見て」

 朝陽くんはスマホを取り出し、その画面を提示してきた。
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