惨夢

 そこに映し出されていたのはネットのニュース記事だった。

 ある女子生徒(当時17歳)が屋上から飛び降り自殺を図ったこと。彼女は助からずに亡くなったこと。
 それらの事実が淡々と記されている。
 また、自殺の原因は不明とされていた。

「うちの学校だ」

 硬い声で柚が呟く。
 記事にある校名は確かにそうだ。

「それと、これ」

 朝陽くんは画面を操作し、ページを切り替えた。
 とある掲示板サイトだ。スレッドのタイトルは“高2女子、いじめで自殺”。

「いじめ……!?」

「それは確定事項じゃない。あくまでネット上の憶測だ」

「ただ、名前と写真が晒されてて」

 画面をスクロールすると、画像が表示された。

 長い黒髪に血の気のない白い肌、まとっているのはうちの制服だ。
 目鼻立ちははっきりしているものの、表情は(とぼ)しく瞳も虚ろで、どこか近寄りがたい雰囲気がある。

「……何これ、不気味。既に幽霊みたい」

「おい」

 率直に言い放った柚を高月くんがたしなめる。
 彼女は叱られた子どもみたいに肩をすくめた。

「名前は……白石芳乃(しらいしよしの)?」

 写真の上部には“自殺した女子生徒・白石芳乃(17)”と書かれている。
 ほかに読み方があるとは思えないし、恐らくそれで合っているはずだ。

 さらにページをスクロールしてみたけれど、そこには心ない言葉や根拠のない憶測が飛び交っていた。
 思わず眉をひそめてしまいながら手を止める。これ以上見る気にはなれない。

「この子があの化けもんってこと?」

「たぶん……」

 柚の問いかけを首肯(しゅこう)した朝陽くんはスマホをしまう。

「何でそう思ったわけ?」

「見ただろ、最初の夜。屋上から飛び降りる姿」

 ふとそのときの光景が蘇ってくる。
 ものすごい速度で地面に吸い込まれていくあの姿は強烈な印象で、脳裏(のうり)に焼きついていた。

 記事によれば、白石芳乃は飛び降り自殺を図っている。
 ならば、あの光景は彼女の死に様を表していたのだろうか。

「もしかしたら、あれもメッセージだったのかもしれない」

 顔を上げ、そう言った高月くんをまじまじと見る。
 彼は恐らく、既にわたしと同じ結論を出している。
 つまり、あの化け物……白石芳乃は何かを訴えかけているのだ、ということ。
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