惨夢

「うっそ、開いた」

「マジかよ」

 開けた張本人が一番驚いていたが、全員にとってまったく予想外の出来事だった。

「どう、するの?」

「決まってるじゃん! 行くよ」

 おずおずと尋ねたものの、その答えは聞くまでもなく分かりきっていた。

 振り返った柚は全員を、いや主に高月くんを得意気に見やる。

「ほらね、あたし運いいでしょ」

「……どうだかな」

 一部は弾むような足取りで、一部は慎重な足取りで、それぞれフェンスの内側に入った。

 柚は番号の振られた飛び込み台の上に四つん這いになり、水面を見下ろす。

 想像以上のありさまだった。

 緑色の水は濁っていて、底まではほとんど見通せない。
 黒々とした藻や葉っぱが浮いて漂い、生ぐさいようなにおいが鼻につく。

「これ自分の姿映せてんのかな」

 水が汚い上に暗くてよく分からないのだろう。
 わたしはそこまで近づく気にもなれない。

 もし落ちたら、なんて考えていると、夏樹くんが動いた。

「わっ!」

「うわっ、ちょっと!」

 屈み込んでいた柚の背中を押したのだ。

 本当に突き落とす気はなかったのだろうけれど、冗談だとしても心臓に悪い。
 見ているこっちがはらはらした。

 抗議(こうぎ)する柚と面白がるように笑う夏樹くんの声をよそに、高月くんもプールに歩み寄った。
 ふちに立ち、揺れる水面を見下ろす。

「朔?」

 ざあ、と風が吹いた。

 それこそ化け物みたいな黒い木々が揺れる。
 はらはらと落ちた葉がプールサイドを転がって乾いた音を立てた。

「……何も起こらないな」

 1分くらい経ったとき、高月くんが呟く。

「やっぱ幽霊なんていないんだ」

 夏樹くんはどこか気が抜けたように言い、すとんとふちに腰を下ろす。

「あ、全員でやんないとだめなんじゃない?」

 少し離れた位置にいたわたしと朝陽くんを振り返って、思いついたように柚が言った。
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