惨夢
「しかも、顔もそっくりだしな。あの化け物は十中八九、白石芳乃だろ」
「そう……だっ、け?」
眉を寄せた柚がわたしと朝陽くんを窺った。
そっくりかどうかと聞かれると、正直答えられない。
夢の中で襲いかかってくる化け物の顔は、怖くてあまり直視できずにうろ覚えだ。
そもそも血まみれで、双眸は眼球ごと真っ黒で、どうしたって白石芳乃の顔写真と純粋に比較することはできない。
似ているような気はする。
髪や雰囲気は、そんな感じだったと思う。
「……でも、確かに気になってた」
ぽつりと呟く。
化け物の風貌を思い出し、ついでに“そのこと”が腑に落ちた。
「何が?」
「あの化け物、びしょ濡れだったでしょ。何でなのかなって思ってた」
少し考えてから、思いついたように朝陽くんが神妙な顔をする。
「……いじめ」
やがて口にされたその言葉に小さく頷いた。
ネットの掲示板の憶測を鵜呑みにするわけじゃない。
もちろん、びしょ濡れだったのにはほかに理由がある可能性も否定できない。
だけど、いじめられていたからだ、という結論もまた否定しきれない。
怪談で彼女を呼び出すには、最初にプールへ行く必要があった。
あのプールだってそうだ。どう関連しているのか分からなかった。
だけどもしかしたら、いじめられていた白石芳乃はそこに突き落とされたことがあるのかもしれない。沈められたことがあるのかもしれない。
「……ねぇ、ほかには? 何か分かったことないの?」
重たい空気を押し返すように柚が尋ねる。
「……ああ、めぼしい情報は特に。図書室で新聞とか色々遡ってみたけど、内容はあのネット記事と変わらない」
先ほど目にした記事以上の情報は、どこからも得られなかったようだ。
白石芳乃は校舎の屋上から自ら飛び降りて亡くなった。もしかしたら、いじめが原因で。
一旦、あの化け物の正体は彼女であると仮定してもいいような気がする。
「でも、じゃあ────」
視線を落としたまま、ぎゅ、と両手を握り締める。
「“人殺し”って何だったんだろう……?」
夢で目にしたその言葉が、血で書かれた文字が、頭の中ででたらめに混ざり合った。
“たすけて”。
“裏切り者”。
どうしたってメモの内容からは、不穏な可能性に行き着いてしまう。
「本当は自殺じゃなくて、誰かに殺された?」
朝陽くんの声が鉛みたいに重く胸に沈んだ。
寒々しい心臓の音が響いては身体の内側を打つ。
白石芳乃は、実際には誰かに殺害されたにも関わらず、自殺として処理されてしまった。
それが無念で、こうして訴えかけている……?
彼女が知って欲しいのは、死の真相なのかもしれない。
それにたどり着けば、この悪夢を終わらせられるのだろうか?
わたしたちは解放される?