惨夢
メモを写真におさめたあと、前方を調べ終えたわたしは机より先に後方の掃除用具入れやロッカーを確かめることにした。
机を探すことには何となく苦手意識を覚えてしまっていた。
どのみち避けられないとはいえ。
横に移動しながらロッカーの中を照らしていく。
こちらは靴箱と違って扉がないため楽な作業だった。
──ぽん……
「……っ!?」
不意に右肩に感触が乗って、息が止まる。
誰かの手……?
ぞわぞわと寒気が皮膚を撫で、粟立っていく。
(なに……?)
その場にいすくまって動けなくなった。身体が硬直してしまう。
心臓がばくばく早鐘を打つ。
振り向きたい。でも、どこか異様な雰囲気があって躊躇われる。
「花鈴」
背後から聞こえてきたのは朝陽くんの声だった。
はっとして顔を上げる。
「朝陽くん……?」
「そう。こっち向いて、ちょっと来てくんない?」
呼吸が震えているのを自覚した。悪寒が止まない。
なぜだか分からないけれど、振り返っちゃいけない気がする。
そんな直感的な本能からの警告に従い、わたしは背中越しに聞き返した。
「な、何で……?」
「化け物がこっちに向かってきてる。早く逃げないと」
「えっ」
咄嗟に振り向きかけて、すんでのところで慌てて動きを止めた。
それが本当ならこうしている場合じゃない。
だけど、彼の妙に落ち着き払った声色に違和感を覚えた。
(やっぱり変……)
そもそも朝陽くんは2階で鍵を探していたはずなのに、どうして化け物がここに接近してきていると分かったのだろう。
それに、わたしは教室を出入りするとき毎回扉を閉めていた。
彼に声をかけられるまで、それが開閉した様子はなかった。近づいてくる足音も気配もまったくしなかった。
(後ろにいるのは……本当に朝陽くんなの?)