惨夢
凍てつくような恐怖がまとわりついて離れない。
喉に張りつく声を無理やり押し出す。
「ほ、ほかのみんなは……」
「もう死んでんじゃない? 花鈴もばかみたいに無駄死にしたくないでしょ。俺たちだけでも生き延びないと────」
「誰なの?」
気がついたらそう聞き返していた。
違和感が恐れを上回って、自分でも知らないうちに気色ばんでしまう。
「誰、って」
「あなたは誰……!? わたしの知ってる朝陽くんは、絶対にそんなこと言わない」
殺された友だちを“ばかみたい”だなんて蔑ろにしたりしないし、自分たちだけ助かればそれでいい、なんて考え方もしない。
優しい彼はいつも周りをよく見ていて、友だち思いで、自分よりもほかの人を優先してくれる。
「…………」
沈黙が続いた。
その間ずっと、首筋に鋭利な刃を突きつけられているような気がしていた。
「……チッ」
いらついたような低い舌打ちが聞こえたかと思うと、肩に置かれていた手の感触と重みがふっと消えた。
凍えるほど冷たい空気も、得体の知れない気配も消え去って、わたしはようやく緊張感から解放される。
「……っ」
ばっと振り向いてライトで照らすけれど、そこには誰もいなかった。
ただ、先ほどまでナニカがいたと思われる足元には、深い血溜まりができていた。
(何だったの……?)
もし振り返っていたらどうなっていたのだろう。
そこにはいったい何がいたのだろう。
想像するとまた怖くなってきて、悪寒が皮膚を這っていく。
思わず右肩に触れると湿っていることに気がついた。
指先を照らすと、血がついている。
「ひ……っ」
悲鳴を押し殺すように息をのむ。
慌てて窓に寄って映し、肩のあたりを確かめた。
そこにはくっきりと真っ赤な手の跡が染み込んでいる。
落ち着いたはずの心音がまた暴れ出した。
まさか、あんなふうに騙し討ちのようなことをしてくるなんて。
(あれは、でも……化け物とは別の怪異ってことなのかな)
それでも彼女の呪いの一端ではあるのだろうか。
いずれにしても悪意しか感じられない。