惨夢
結局、ロッカーから鍵やほかのメモは見つからなかった。
どうにか気を強く持って割り切り、机の中の探索に移る。
また、白い手が伸びてきたら。
臓物が詰め込まれていたら。肩に手を置かれたら。
悪い想像ばかりが頭の中を駆け巡り、恐怖のせいで意識が逸れてしまいそうになる。
(集中しなきゃ……)
鍵を見落として校舎から出られなくなる方がよっぽど怖いことなのだ。
椅子を引き、机の中を覗き込む。
それは空洞のど真ん中に鎮座していた。
「あった」
鍵だ。プレートを確かめると“実験室”とある。
ちょうど3階の教室だけれど、北校舎側だった。一旦あと回しにして、南側の普通教室をすべて終えてから向かおう。
「…………」
立ち上がったわたしは扉の方へ歩み寄った。
息を殺し、向こう側にすべての注意を向ける。
しん、と静まり返っている。
化け物が発する水音も引きずるような足音も聞こえてこない。
そろそろと扉を開けて廊下に出ると、素早く左右を確かめる。
少なくとも光の届く範囲には何もいなかった。
一歩一歩に集中力を注ぎ、隣の教室へ向かう。
D組の扉もまた、すんなりと開いてくれた。急いで中に入るとさっと閉めておく。
(……よし)
先ほどと同じように、まずは前方から調べていくことにする。
掲示板を照らしてみた。
C組のそれとは違って文字化けはしていない────けれど。
「えっ!?」
思わず驚きの声がこぼれた。
プリントを留めている画鋲のひとつに鍵が引っかけられていた。ちょうど鍵とプレートの繋ぎ目になっている輪っかの部分。
半ばふんだくるような勢いで手に取り、プレートを確かめる。
(“屋上”……!)
わたし自身は初めて手に取った、目当ての鍵だ。
──ジリリリリリリ!
突如として廊下からけたたましい非常ベルの音が鳴り響いてきた。
「!」
びくりと肩が跳ねる。
やっぱりベルは鍵発見の合図なんだ、なんて考えながら耳をふさいだ。
近くで聞くと鼓膜が破れそうなほどうるさい。
それと同時に怖くなった。
現在地から最寄りのベルが鳴るという話だった。この音は化け物の耳にも届いているはずだ。
わたしは鍵を握り締めたまま、教室を飛び出した。
どのみち足音なんて聞こえない。もう慎重に息を潜める必要もない。
東階段を目指して廊下を駆けていく。