愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
忘れるな、と言いながら自分を抱いた男だ。
男——ヒルデブラントは剣を鞘に収めて彼女に跪いた。
「お迎えに参じました」
静かに告げられた言葉に、エルシェは戸惑った。
微動だにできず、彼を見つめる。
「恐怖で足が萎えたか」
彼はつかつかと歩み寄ると、彼女を横抱きに抱きかかえた。彼の思い違いを訂正する間などなかった。
「あなたにふさわしい場所にお連れいたしましょう」
彼は優しく囁いた。
死神はかくも美しく優しいのか。
エルシェはうなずき、彼に身をゆだねた。
血まみれの彼に抱き上げられ、彼女もまた血にまみれた。
「緊急時ゆえ、お許しあれ。湯を用意して差し上げたいが、ままなりませぬ」
エルシェはうなずく。
通された部屋には十三年ずっと彼女の世話をしてくれていた女神官、ゼンナ・コフィーが待っていた。
「殿下、ご無事で」
ゼンナがほっとしたように言う。
「なにが起きているのでしょう」
「ヒルデブラント様がご説明されます。まずはお召替えを」
「ヒルデブラント……」
忘れるな、と言われたその名。心に烙印のように押され、決して消えることがない。
ゼンナからも聞いたことがあるその名は、いまや救国の英雄として全土に知れ渡っている。
その彼が、自分に「迎えに来た」と言った。
救国の英雄だからこそ、自分を迎えに――滅ぼしに来たのだ。
彼は「死神将軍」とも呼ばれていると聞いた。
確かに彼は死の神の絵姿と同じ金と銀の目をしている。
着替えは最後の慈悲だろう。
ゼンナがエルシェの体を拭き、青い絹のドレスを着せてくれた。
上質の亜麻でできたチュニックを着てからブリオーを身に纏う。
ブリオーは上半身は体にピッタリしているが、スカートはプリーツを寄せて床まで長く裾をひいた。襟元と裾には金糸で花の刺繍が施され、ため息が出るほど見事だった。
男——ヒルデブラントは剣を鞘に収めて彼女に跪いた。
「お迎えに参じました」
静かに告げられた言葉に、エルシェは戸惑った。
微動だにできず、彼を見つめる。
「恐怖で足が萎えたか」
彼はつかつかと歩み寄ると、彼女を横抱きに抱きかかえた。彼の思い違いを訂正する間などなかった。
「あなたにふさわしい場所にお連れいたしましょう」
彼は優しく囁いた。
死神はかくも美しく優しいのか。
エルシェはうなずき、彼に身をゆだねた。
血まみれの彼に抱き上げられ、彼女もまた血にまみれた。
「緊急時ゆえ、お許しあれ。湯を用意して差し上げたいが、ままなりませぬ」
エルシェはうなずく。
通された部屋には十三年ずっと彼女の世話をしてくれていた女神官、ゼンナ・コフィーが待っていた。
「殿下、ご無事で」
ゼンナがほっとしたように言う。
「なにが起きているのでしょう」
「ヒルデブラント様がご説明されます。まずはお召替えを」
「ヒルデブラント……」
忘れるな、と言われたその名。心に烙印のように押され、決して消えることがない。
ゼンナからも聞いたことがあるその名は、いまや救国の英雄として全土に知れ渡っている。
その彼が、自分に「迎えに来た」と言った。
救国の英雄だからこそ、自分を迎えに――滅ぼしに来たのだ。
彼は「死神将軍」とも呼ばれていると聞いた。
確かに彼は死の神の絵姿と同じ金と銀の目をしている。
着替えは最後の慈悲だろう。
ゼンナがエルシェの体を拭き、青い絹のドレスを着せてくれた。
上質の亜麻でできたチュニックを着てからブリオーを身に纏う。
ブリオーは上半身は体にピッタリしているが、スカートはプリーツを寄せて床まで長く裾をひいた。襟元と裾には金糸で花の刺繍が施され、ため息が出るほど見事だった。