愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
浅い眠りだった。
暗殺を請け負うようになってから身についた防御だった。彼自身が狙われたときに反応するための戦場の眠り。
だから、ドアが開く前に気配で目覚め、彼は身構えた。
ノックもなく開けられたドアから武装した兵が次々と入って来た。
兵たちは槍を構えて彼を取り囲んだ。
槍を武器としたのは武勇の誉高いヒルデブラントを警戒したのだろう。彼が剣を振るう前に槍で一突きという算段に違いない。
包囲網が完成すると兵が左右に分かれ、王の側近が現れる。
「謀反の意志ありと確認された」
彼は重々しく告げた。
これまでか、とヒルデブラントは床を見つめた。
謀反の意志を見せたことなど、一度もなかった。
「昨夜はマデリエ様に襲い掛かろうとしたとも聞いた。なんと節操のないことよ」
側近が嘲笑う。
まるで逆だ。
彼女がそういう手段に出ると、考えないでもなかった。
讒言は奸人の常套手段だからだ。
彼は両手を上げて投降の意志を見せた。
「陛下に信じてもらえないのであれば、仕方がありません」
陛下の犬。
間違った騎士道、君主のためならば汚い仕事を平気で請け負う。
そう評された彼の素直な投降に、側近は油断した。
「せめてもの情けだ。貴様は騎士道に殉じたと墓に刻んでやろう」
側近が薄ら笑いを浮かべる。
兵にもまた油断が広がった。
ヒルデブラントはそれを見逃さない。
ベッド脇の剣をつかみ、鞘から抜く。
槍の間をいっきに駆けて側近を切り捨てた。
一瞬のことに、兵たちの対応が遅れた。
彼に槍を向けようとするが、室内でまごつく。
狭い部屋で槍を武器とするなど愚かな。
ひそやかに笑い捨て、彼は逃げ出した。
最後の手段を実行するべく、彼は城下へと駆け抜けた。