愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
城下の街で、彼は一軒の居酒屋に忍び入った。
その地下に、仲間がいる。
反乱を企図した集団であり、首魁は元宰相のレギー・トバイアスだ。
初めての暗殺を依頼された夜、ヒルデブラントは賭けに出た。
世の大臣たちはハリクスのご機嫌をとり、金で地位を買ったようなものだった。
だが、知性派と言われたレギーは違った。
周到に計算し、国王派に目をつけられないように用心をしながらも宰相の地位にまで登り詰めた。
結局はまっとうに政治を行う彼を邪魔に思った王に目をつけられたのだが。
ならば、とヒルデブラントは思った。彼を味方につけることができれば、この先の計画がやりやすくなるだろう。
ヒルデブラントは彼を待ち伏せ、一人になった折に姿を現した。
そして、レギーに話した。
いつか王女エルシェを救いたい。たとえ国を滅ぼすことになったとしても。そのために俺に暗殺されてくれ。
それだけで、彼は察した。
「ずいぶんと大胆な男だな」
くつくつと彼は笑った。
「断れば私の命はないのだろう。どのみち、まっとうなやり方では変えられぬと思い始めていたところだ。提案に乗ろう」
レギーは、偽装暗殺に同意してくれた。
ヒルデブラントは賭けに勝ったのだ。
墓から掘り起こした他人の遺体を用意した。
レギーの服を着せた上で顔をつぶしてわからなくした。豚の血を浴びせて剣を刺し、夜道に転がした。
「御遺体にこのようなことをするなど、神の説く道に反する行為だ」
レギーは楽しそうに言った。
「どうでもいい」
ヒルデブラントは答える。
彼はただ、エルシェを救うためだけに存在するのだから。
レギーは辺境へと身を隠した。
その後、いもしない強盗犯の捜索が打ち切られたころに王都に戻る。
水面下で反乱の準備をした。