愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
「あなたの希望を奪ったのに?」
「希望なんて」
エルシェが言いかけたときだった。
壁のタペストリーが揺れた。
そちらを見た二人は息を呑んだ。
殺されたはずのハリクスが、息を乱して立っていた。
「どういうことだ」
ハリクスは険しい表情でヒルデブラントに問う。
「レギーが生きていた! 殺したはずだろう!」
「値千金の命を奪うなど愚かなことは致しません」
ヒルデブラントは冷たい笑いを返した。
「あなたこそ私が弑し奉ったはずでしたが、替え玉でしたか」
近衛として近侍したヒルデブラントすら欺くほどの男をよく見つけ出したものだ。
その男を斬らせ、隠し通路へ逃れてここへ辿りついたのだろう。
王女であるエルシェが使っていた私室にもまた、タペストリーに覆われた隠し通路の出入り口がある。
ハリクスは外へ出るつもりが、間違えてこちらに来てしまったのだろう。
「裏切ったのか!」
「裏切りは信頼あってこそ成立するもの。陛下が一時でも私を信頼したことがありましょうや?」
ヒルデブラントの言葉にハリクスは悔しそうに声をもらし、それからようやくエルシェに気が付いた。
「お前、まさか、エ、エリス……」
エルシェは悲しげに目を細めた。
「エルシェリーアです。お父さまは名前すら覚えていて下さらないのですか」
「名前などどうでもいい、こいつを殺せ!」
ハリクスが命じる。
エルシェの手には、ヒルデブラントに押し付けられた剣がある。
「殺したらお前に褒美をやる、いくらでも贅沢させてやるぞ!」
「……お父さま」
エルシェは邪魔なマントを剥ぎ取り、剣を鞘から抜いた。
ヒルデブラントは迷う。
エルシェの手にかかることに異存はない。
だが、ハリクスがいるとなれば話は別だ。
「希望なんて」
エルシェが言いかけたときだった。
壁のタペストリーが揺れた。
そちらを見た二人は息を呑んだ。
殺されたはずのハリクスが、息を乱して立っていた。
「どういうことだ」
ハリクスは険しい表情でヒルデブラントに問う。
「レギーが生きていた! 殺したはずだろう!」
「値千金の命を奪うなど愚かなことは致しません」
ヒルデブラントは冷たい笑いを返した。
「あなたこそ私が弑し奉ったはずでしたが、替え玉でしたか」
近衛として近侍したヒルデブラントすら欺くほどの男をよく見つけ出したものだ。
その男を斬らせ、隠し通路へ逃れてここへ辿りついたのだろう。
王女であるエルシェが使っていた私室にもまた、タペストリーに覆われた隠し通路の出入り口がある。
ハリクスは外へ出るつもりが、間違えてこちらに来てしまったのだろう。
「裏切ったのか!」
「裏切りは信頼あってこそ成立するもの。陛下が一時でも私を信頼したことがありましょうや?」
ヒルデブラントの言葉にハリクスは悔しそうに声をもらし、それからようやくエルシェに気が付いた。
「お前、まさか、エ、エリス……」
エルシェは悲しげに目を細めた。
「エルシェリーアです。お父さまは名前すら覚えていて下さらないのですか」
「名前などどうでもいい、こいつを殺せ!」
ハリクスが命じる。
エルシェの手には、ヒルデブラントに押し付けられた剣がある。
「殺したらお前に褒美をやる、いくらでも贅沢させてやるぞ!」
「……お父さま」
エルシェは邪魔なマントを剥ぎ取り、剣を鞘から抜いた。
ヒルデブラントは迷う。
エルシェの手にかかることに異存はない。
だが、ハリクスがいるとなれば話は別だ。