愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜

「予言の通りだった。この女は滅びを呼んだ！」
　ハリクスはエルシェを刺し殺そうと剣を振り上げる。
「殿下！」
　叫び声とともにヒルデブラントが現れ、ハリクスは思わず手を止めた。
「お早く、こちらへ」
　ゼンナがせかす。
　ハリクスは舌打ちしてエルシェを放り、走り出した。
　ヒルデブラントはエルシェに目で合図を送り、ハリクスを追った。
　大丈夫だから、待っていろ。
　エルシェは彼の合図をそう解釈した。
　だが、じっとしていられるわけがない。
　彼女もまたハリクスを追って走った。



　息を切らせて城壁の端に立ち、ハリクスはゼンナを振り返る。
「ここからどうやって逃げるというのだ」
「こうやるのです」
　ゼンナは勢いよくハリクスを押した。
「なにをする！」
　ハリクスはたたらをふみ、それでも城壁からは落ちなかった。
「お前！」
　ハリクスはゼンナに剣をふるう。
　剣は、とっさに避けたゼンナの腕をかすめた。
「やめろ！」
　ヒルデブラントは剣をハリクスにふり下ろす。
　途中で兵から借りた剣だった。
　ハリクスはそれをいなした。
　ヒルデブラントはさらに剣をふるい、城壁の際(きわ)においつめる。
「あいつの目の前で俺を殺すのか」
　ハリクスは剣で示して言う。ヒルデブラントの目の隅に、走って来るエルシェが見えた。
「父親を殺すのを、目の前で見せるのか」
　苦し紛れの言葉に、ヒルデブラントは虚をつかれた。
　曲がりなりにも、エルシェの父だ。
　決別を宣言した彼女だが、やはり現場を見てしまえば今後を穏やかに過ごすことはできなくなるだろう。
　迷った一瞬を見逃さず、ハリクスはヒルデブラントの胸に剣を突き立てた。