愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
「なにをおっしゃっているのか、ご理解の上か?」
なんとしてでもひきとめたい、その一心が伝わって、ヒルデブラントは彼女を見つめる。
「あなたは私を愛して下さっているのではないのですか」
すがるようなエルシェの声に、ヒルデブラントの心が揺れる。
「愛、と……私の我欲をそのような美しいものにして下さるのか」
ヒルデブラントは暗い顔を床に向ける。
「あなたを汚したというのに」
「あなたの愛が汚れであろうはずがありません」
「しかし」
「ありもしない罪を作って自ら落とし込むのはおやめください」
ヒルデブラントは黙って首を振った。
彼女が許してくれたのだとしても、ヒルデブラントがしたことに変わりはない。
なのに。
エルシェは彼にまっすぐに手を伸ばす。
ヒルデブラントはためらいながら歩み寄った。
バルコニーに出た彼に、エルシェは迷いなくしがみつく。
「あなたは心に寄る辺を作って下さいました。あなたから届く花が、どれほど希望となりましたことか」
「私が希望であったと、そうおっしゃっるのか」
「そうです。ほかの何者でもない、あなたこそが」
エルシェは涙をこぼし、笑顔を向けた。
ヒルデブラントは彼女をぎゅっと抱きしめた。
今宵、月はない。
だが、月光を編んだような髪が、今、彼の手の中にあった。
星をとどめたような瞳が、彼を見つめる。
「私の一生をあなたに捧げる」
ヒルデブラントが言い、エルシェの顎に手を当てた。
エルシェはゆっくりと目を閉じる。
さやかな星が闇の空に散らばり、きらめきながら人の世を包んでいた。
一年後。
悲劇の王女を救い出した救国の将軍は、女王となった彼女との婚姻の儀に臨んだ。
取り仕切ったのは宰相となったレギーだ。
エルシェリーアとヒルデブラントは共同統治者となり、王政を廃止した。
ランストン王国は滅び、エルブラント共和国が生まれた。
二人は善政を敷いたとして歴史に名を刻んだ。
終
なんとしてでもひきとめたい、その一心が伝わって、ヒルデブラントは彼女を見つめる。
「あなたは私を愛して下さっているのではないのですか」
すがるようなエルシェの声に、ヒルデブラントの心が揺れる。
「愛、と……私の我欲をそのような美しいものにして下さるのか」
ヒルデブラントは暗い顔を床に向ける。
「あなたを汚したというのに」
「あなたの愛が汚れであろうはずがありません」
「しかし」
「ありもしない罪を作って自ら落とし込むのはおやめください」
ヒルデブラントは黙って首を振った。
彼女が許してくれたのだとしても、ヒルデブラントがしたことに変わりはない。
なのに。
エルシェは彼にまっすぐに手を伸ばす。
ヒルデブラントはためらいながら歩み寄った。
バルコニーに出た彼に、エルシェは迷いなくしがみつく。
「あなたは心に寄る辺を作って下さいました。あなたから届く花が、どれほど希望となりましたことか」
「私が希望であったと、そうおっしゃっるのか」
「そうです。ほかの何者でもない、あなたこそが」
エルシェは涙をこぼし、笑顔を向けた。
ヒルデブラントは彼女をぎゅっと抱きしめた。
今宵、月はない。
だが、月光を編んだような髪が、今、彼の手の中にあった。
星をとどめたような瞳が、彼を見つめる。
「私の一生をあなたに捧げる」
ヒルデブラントが言い、エルシェの顎に手を当てた。
エルシェはゆっくりと目を閉じる。
さやかな星が闇の空に散らばり、きらめきながら人の世を包んでいた。
一年後。
悲劇の王女を救い出した救国の将軍は、女王となった彼女との婚姻の儀に臨んだ。
取り仕切ったのは宰相となったレギーだ。
エルシェリーアとヒルデブラントは共同統治者となり、王政を廃止した。
ランストン王国は滅び、エルブラント共和国が生まれた。
二人は善政を敷いたとして歴史に名を刻んだ。
終