愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
「どういうことですか? 私、殺されるのではないのですか?」
「是非もない。あのような出で立ちで参上いたしますれば、誤解を召されるのもやむなし」
 ヒルデブラントは苦笑した。
「殿下を投獄した者たちは私が葬りました。今、この国の正当なる継嗣は殿下のみであらせられる」
 エルシェは混乱した。葬った、とは。まるで命を奪ったかのようだ。
「おかけになられよ。小競り合いは続いているが、じきに我が軍が収めるでしょう」
 エルシェは長椅子に座った。
「ヒルデブラント様」
「覚えておられましたか」
「牢に会いに来てくれたのはあなただけですから」
 ヒルデブラントは皮肉な笑みを浮かべた。
「ずいぶんとお優しくおっしゃる。私を憎んでおられるはずだ」
 エルシェは困惑して彼を見た。
「どうして……」
「あなたを奪い、あなたの家族を奪った」
 エルシェは押し花のしおりを抱きしめた。
 迂闊に触れたら千切れてしまうそれは、エルシェにひっそりと寄り添った。

***

 十八年前、ランストン王国の国王ハリクス・ジョンフレッド・ローズブレイドを父として、アミーリア・リータ・ローズブレイドを母としてエルシェは生まれた。
 アミーリアは隣国ティスタール共和国の出身だった。共和制のティスタールは貴族はいても王族はいない。
 彼女は貴族で、当時の元老院の長の娘だった。ランストンとの政略結婚で嫁ぎ、エルシェリーアを生んだのだ。
 エルシェリーアは、エルシェと呼ばれた。
 父から顧みられることはなかったが、母からの愛を受けてすくすくと育った。
 ある日、急な病でアミーリアが身罷(みまか)った。
 ハリクスはすぐさま後妻を娶った。
 マディリーニア・アニィ・ローズブレイドだ。
 ハリクスは彼女をマデリエと呼び、愛した。
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