愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
 マデリエは月満たずしてエルシェの妹王女となるティルディーアを生んだ。
 彼女はティルデと呼ばれ、愛された。
 侍女たちは噂した。
 王妃様が亡くなる前から関係があったのよ。
 王妃様、もしかして。
 それはまだ五歳だったエルシェにも届いた。難しいことはわからなかったが、母が殺されたのかもしれない、という不安だけは理解し、心を痛めた。
 ティルデが生まれて一か月後、彼女の顔に白い布がかけられる事件が発生した。
 マデリエは犯人がエルシェだと名指しした。
「ティルデに嫉妬して殺そうとしたのよ!」
 ハリクスはエルシェを離宮へ遠ざけた。確たる証拠がなかったので公の断罪はなかった。
 しばらく後のことだった。
 一人の女神官が、ハリクスが臨席する礼拝で急なトランス状態に陥った。
「王女エルシェリーアは滅びを呼ぶ……」
 その言葉に、ハリクスは戦慄した。
「まことか!」
 問い詰めるハリクスに、彼女はとっさに答えられなかった。
 酩酊感が残っていて、意識はうつろだった。
「妹を亡き者と画策するような娘、国を滅ぼすならばなおさら処刑をせねばなるまい」
 届いた言葉に、女神官は急速に意識を取り戻した。
 自分が発した予言で、命が奪われようとしている。
「お待ちください」
 彼女はハリクスにひれ伏した。
「その者の命を奪えば、滅びはすぐさま訪れるでしょう。幽閉するにおとどめください。滅びを呼ばせないように私が監視いたします」
 彼女の言葉に、ハリクスは舌打ちした。
 そうしてエルシェは尖塔に幽閉され、予言を告げた女神官だけが彼女の世話をした。



 幼いエルシェはどうして自分が幽閉されたのか、理解できなかった。
 国を滅ぼす妖女め!
 父にそう罵られたが、そんなつもりはないし、どうしたらそれができるのか、わかるはずがなかった。
 父は、会いに来てくれなかった。
 尖塔の先端に作られた牢は狭い。
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