愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
 それからもときおり、差し入れられた。
 本は高価なせいか、年に一度か二度だった。
 菓子と花はきまぐれに週に一度、二週に一度とばらついた。
 お菓子もうれしかったが、それ以上に花に喜び、枯れたときには悲しんだ。
 それを見たゼンナが、押し花の作り方を教えてくれた。
 押し花はもろく、扱いを間違えると千切れてしまう。
 花が壊れた、と泣きべそをかくエルシェに、千切れた花を使って絵を作成しては、とゼンナは言った。
 道具は衛兵の目をかいくぐり、ゼンナが用意してくれた。
 道具がそろうと、すぐにエルシェは挑戦した。
 布を貼ったキャンバスに、水で溶かした(にかわ)を使って貼っていく。
 拙く出来上がった押し花の花束を見て、エルシェは満足の笑みを浮かべた。
 薄く差し込む日を浴びて、生きた花々に見劣りすることなく輝いて見えた。
 花には言葉があると知ったとき、調べられる本はないかとゼンナに尋ねた。
 ゼンナはそれが載った本を調達してくれた。
 花が届くたび、花言葉を調べた。
 カスミソウは清い心。ミモザは優雅。
 花言葉は色によっても本数によっても変わることがある。
 良い言葉のときは心が浮き上がった。悪い言葉のときは、きっと知らずに花の綺麗さゆえに贈ってくれたのだと——そう思うことにした。
 贈り主はどんな人だろうか、と心を馳せることもあった。
 男性だろうか。女性だろうか。若者なのか、老者(ろうしゃ)なのか。ゼンナはなにも教えてくれない。
 いつか読んだ物語のように、素敵な若者であればいいのに。
 悪者に捕まった姫を助ける王子や騎士のように、私を連れ出してくれたら。
 思春期になると想いは強まった。
 そんなある日、一本だけの赤いバラが届いた。
 いつもは小さな花束(ブーケ)が届けられるから、一本だけというのが意味ありげに思えた。
 きっと意味はないのに。
 そう思いながらも、期待してしまっていた。
 赤い薔薇の花言葉は「愛情」や「あなたを愛しています」などいくつかある。
 一本の薔薇の意味は「ひとめぼれ」「あなたしかいない」だ。
 こんなところにいてひとめぼれなんてありえないし、あなたしかいないなんて、なおさら言われるはずがない。
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