ビターなフェロモン (短)

「なんだよ今の……静電気?」


私より先に我に戻った蓮人くんが、床に落ちたジュースを拾う。

さっきの火花でパックが燃えたり……はしてなかったみたい。

穴のあいていないジュースは、私の机に置かれた。


「おい、大丈夫か桃子」

「へ、平気……」

「うそつけ。手、震えてんぞ」


ビックリしたからか、私の手はわずかに震えていて……。

私さえ気づいてなかった事なのに。

蓮人くん、よく見てくれてるなぁ。


「ケガしてないか見るから、手かして」

「う、うん……」


おそるおそる、手をのばす。

そして私より一回りも二回りも大きな蓮人くんの手に触れられた――と同時に。


ドクンッ、と。

体中の血が、沸騰した。


「う……、ぁっ」

「桃子⁉」


胸をおさえて苦しむ私を見て、蓮人くんは私との距離を縮めた。

クラスだけでなく廊下にも人はおらず、蓮人くんが私を呼ぶ声が鮮明に聞こえる。
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