ビターなフェロモン (短)
「おい、桃子」
「あ、は、はい……っ」
今は「桃子」って呼ぶんだ。
さっきはさっき、今は今、なのかな……。
蓮人くんは「桃子」と呼んだ後、自分の夏服をグイと伸ばし、私の汗を拭いた。
「わ、ぶ……っ」
「タオルじゃなくて悪いな。朝、俺が使ったから」
「う、ううん。あ、ありがとう……っ」
そんなに自分が汗をかいているとは知らず……。
私から一歩離れた蓮人くんの制服は、思った以上に濡れた跡があった。
「ご、ごめ……制服がっ」
「いーよ、どうせ帰ったら洗うんだし。
それより一人で帰れるか? 俺、これからバスケ部に顔を出さないとなんだけど……送る?」
コテン、と。
蓮人くんが頭を横に倒す。
送る……って、蓮人くんが、私を?
家まで送ろうか?って、そう言ってくれてるの?