ビターなフェロモン (短)

「あ、悪い。お前らの中の、え~っと、」

「俺?」

「そう、お前! 蓮人!」

「人の名前を忘れるなよ」


登校中、校舎までの道のりを三人で歩いていると、ドアが解放されたままの体育館から一人の男子が手招きする。

あの人は確か、皐月くんと一緒のクラスの男子……。


私と蓮人くんは同じクラスで、皐月くんは隣のクラス。

奇跡的に同じ高校に入学した私たちは、今年の四月に新入生として入学したばかり。


今はゴールデンウイークが終わり、梅雨特有の湿気が出てきた六月。

気温も上がり、登校しているだけで半袖の制服からのぞく腕にも汗が滲み出る。


今日、ポニーテールにしてきて良かったぁ……。

首周りに風が通るだけでも違うもんね。


肩より長い黒髪のシッポが、わずかに風で揺れた時。

蓮人くんが「それで」と、私たちより一歩前に出た。


「何の用?」

「朝練してんだけど、人が足りないからピンチヒッターで入ってくんね?」

「俺、バスケ嫌いなんだけど」
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