ビターなフェロモン (短)
ベッドの上で混じる汗
あんな事があった翌日。
私のテンションは、朝から軒並み下がっていた。
ザアア――
「うわぁ、朝から大雨なんて……ツイてない」
梅雨――と言ったら、雨。
ため息ひとつ吐いた後、玄関を出て傘を開く。
その「たった三秒」の間で、もう体のあちこちに雨粒が染み込んでいった。
……冷たい。
「わ、水たまりに入っちゃった! 絶対ソックス濡れたよ……」
今から家に戻って、ソックス履き替えようかな。
でも時間が――なんて思っていたら、隣の家から二人が出て来た。
「うわ! すごい降ってるよ、傘かさ!」
「げぇ……最悪」
似た顔なのに、それぞれ違う反応してる……なんだか面白い。
こっそり笑っていたら、皐月くんが「おーい」と私に手を上げた。
「すごい雨だね、桃子。これ梅雨じゃなくて台風じゃない?」
「ふふ、本当だね」
冗談をいう私たちを、透明な傘の向こうから見つめる二つの目――蓮人くん。
昨日の今日で、どんな顔すればいいか分からない。
だってキスしちゃったわけだし……かといって、皐月くんに知られるわけにもいかないし。