ビターなフェロモン (短)

「はぁ、はぁ……」


うぅ、バスケって苦手だよ……。

ボールを追わなきゃヤル気ないって思われるし、ボールを追ってもパス回って来て困るし。

それに、こんなに広いコートを、もう何往復したんだか……っ。


ドクドク――


息が上がっていくにつれて、自分の心臓がうるさくなっているのが分かる。

うぅ、体力の無さ……っ!


「あ、ちょうどいい所にいた! 卯佐美さん、パス!」

「へ、わ! ぶぅッ!」


ベショ!と音がして私の顔に当たったバスケットボールは、バウンドして遠くに転がっていった。

すごい衝撃がいきなり襲って来て、踏ん張る力のない私は、そのまま床に倒れてしまった。


バタン


「きゃー! 卯佐美さん!」
「ごめん、大丈夫⁉」

「だ、だいじょ……」


大丈夫――と言い切る前に、「桃子!」と声が聞こえる。


意識があやふやになっていく中。

目を瞑っていても、私を呼ぶその声が誰のものか――ハッキリわかった。


「おい桃子! しっかりしろ!」


この声……やっぱり、蓮人くん。
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