ビターなフェロモン (短)

そういえば、すぐ隣のコートで、ちょうど蓮人くんも試合してたもんね。

コートの間にネットがあったはずだけど、潜り抜けてきたのかな?

やっぱり……蓮人くんの優しさは、大胆だ。


「頭を打ってるし保健室に連れて行く。いいよな、先生」

「お、おう。頼んだぞ。保健室の先生によろしくな」

「ん」


ふわっ


急に、体が軽くなった。

え……。これって、まさか!


「お、おろして……っ」

「目を回してんのに自分で歩くなんて正気かよ。いいから、黙って担がれてろ」

「……っ」


やっぱり。今の私って、お姫様抱っこされてるんだ。

た、体重がバレてしまう……っ。


今すぐ降ろして――と思うけど、今の蓮人くんが聞いてくれるはずもなく。

主に男子から「ヒューヒュー」と言われる中、二人きりで体育館を後にした。

もちろん、


「桃子……」


その男子の中には、皐月くんもいるわけで。

蓮人くんに担がれた私を、姿が見えなくなるまで見続けていた。
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