ビターなフェロモン (短)

ギュッ


「……手、離したら?」

「え、おわ! 悪いわるい」


固く目をつむった時。

蓮人くんの一声により、男子から解放される。

た、助かった……。


「……っ」

「なに」


ありがとう――ってお礼を言いたいのに、今の蓮人くんは少し不機嫌らしい。

いつも以上に眉間にシワが寄り、私を見る目の鋭さにも磨きがかかっている。


「なんでもないわけ?」

「(コクン)」

「あっそ」


人見知り……というか、怯えてだんまりになった私を見て。

皐月くんが、両手をパチンと合わせた。


「じゃあ桃子を怯えさせた罰として。蓮人、行っておいで」

「はぁ? なんで俺なんだよ」

「困ってる友達を助けてあげないの?」

「俺の名前すら覚えてない奴を〝友達〟なんて言わない」


――と、口ではブツクサいうものの。

蓮人くんは自分の鞄を、皐月くんにポイと投げた。
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