ビターなフェロモン (短)

だけど言われた通り制服に着替えないといけない、と。急いで保健室に戻った。


「桃子、もう凹んでなきゃいいけど」


さっきあんな事があったし、午前の授業は休むだろうな。

また昼休みに来るって、そう伝えておこうか。


そんな事を考えながら、保健室に近づいた時だった。

ドアから出てきたのは――なんと皐月。


「じゃあ先生を捕まえてくる。寝てていいからね、桃子」


俺のいる場所までは桃子の声は聞こえなかったが、きっと返事をしたんだろう。

皐月は笑って頷いた後、保健室の前から離れる。


「授業終わって、一番に来たのか」


皐月は昔から桃子を可愛がっていたから、まぁ、そうするだろうな。

過保護っていうより、好きな子を守ってるって感じだ。


俺から見たら、あの二人は完璧に両想いなんだけど……どうしてか仲が進展しない。

あの二人特有の「和んだ雰囲気」が原因か?


こっちが気をきかせて二人きりにしたり、話し掛けまいとしているのに、全部空振り。

それに桃子は、どうしてか俺の事を苦手に思っているようで……。

そんな桃子のことを俺は、少しだけ気になっていたといえばウソになる。
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