ビターなフェロモン (短)

初めは「俺なんか嫌われることしたっけ?」くらいで気にしていたが……。

皐月にだけ見せる顔を何度か盗み見ているうちに、皐月を羨ましく思う自分がいた。


俺にはあんな風に笑ってくれないのかよ、って。


でも皐月のことが好きな桃子に想いを寄せたって不毛だし、なにより二人の邪魔はしたくない。

だから今まで、自分の中にある想いに気づかないフリをしていたけど……。


平気そうに振る舞うも実は体調が優れない桃子に気付けたのも、男女別バスケでもすぐに桃子を助けにいけたのも、

全て「俺が桃子を目で追っているから」と仮定すれば説明がつく。


なにが不毛だ。
なにが気づかないフリだ。


「不本意にも……俺が一歩、前へ進んだって事か」


俺と桃子は話さない。

だから、はたから見ると微妙に仲の悪い幼なじみ。

それでよかったはずなんだ。


つい、さっきまでは――


「キスをしてタガが外れた、なんて。俺って忍耐力ないな……」

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