ビターなフェロモン (短)
「まさか、好きな人を見たから嬉しくて……とか言わないよな?」
自分へ念押しするも、どうやら免れない事実らしい。
桃子が「んぅ」と寝言を言っただけで、俺の心臓が大げさに反応した。
「! ……はぁ〜」
完敗だ、認めるよ。
俺は……きっと今、浮かれてるんだ。
やっと桃子を「好きな人」って自覚して、柄にもなく小学生みたいにテンションが上がってる。
「こうなったら、開き直るしかないな」
苦笑を浮かべながら、桃子の寝顔をじっと見る。
その時だった。
「さ、つきくん……っ」
「え――」
パタッ
皐月と呼んだ直後、桃子の目から涙が落ちる。
そうか、俺は自分のことしか考えてなかった――と、この時やっと自覚できた。