ビターなフェロモン (短)

「そうだよなぁ、俺は桃子とこんな関係になれてラッキーだけどさ。桃子は……辛いよな」


だって桃子が好きなのは俺じゃなくて、皐月なんだから。

キスだって、俺なんかより皐月としたいだろうに。


――キスして


そう桃子がねだるたび、俺の頭はすごい速度で溶けていった。

嬉しくて、高揚して――桃子を自分の腕から放したくなかった。

だけど、そうか。そうだよな。


俺にとっては甘いフェロモンだが、桃子にとっては――


「苦いフェロモン、か」


桃子を抱きしめた手を見て居られなくて、乱暴にポケットに突っ込む。

するとガサッと、さっき友達にもらったチョコと手がぶつかった。


「あ、これ……」


チョコを見ると、ご丁寧に包装紙に「ビター」と書かれている。


桃子にやろうかと思ったけど、あいつ苦いチョコ食べられるのか?

……まぁ、いいか。
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