ビターなフェロモン (短)
だから、ある日。
「私のフェロモンが迷惑かけてごめんね」って言ったら、
「何のこと?」って真顔で返された。
……?
っていうことは、私のフェロモン云々で気を遣っているわけではなく?――なんて、また振り出しに戻ったり。
とりあえず、読めない蓮人くんに対して、私の思考は右往左往していた。
「それにしても……フェロモンが関係ないとしたら、どうして蓮人くんは私に気を遣ってくれるんだろう」
そんな事を考えながら、上の空で階段を降りていた、
その時だった。
ズルッと足が滑り、階段を踏み外す。
下っていたこともあり、体は簡単に前のめりになった。
「わ、わわ!」
このままじゃ落ちる――と思っていると、手に力強い重みが加わり、重力とは反対方向に引っ張られる。
すると幸いにも落ちることはなく、誰かが私を助けてくれたのだと分かった。
「ありがとう。蓮人く、ん……」
ここ最近、自分にピンチがあると蓮人くんが助けに来ていたから……もはや条件反射だったと思う。
気付けば、私は蓮人くんの名前を口にしていた。
だけど振り返った時、瞳が合ったのは――